今年6年目を迎えたアーティスト・イン・ミュージアム事業。11回目の招聘作家・横山奈美さんを講師に迎え、参加のみなさんが横山さんの作品づくりを追体験することで、さらに鑑賞を深めていただく機会としました。

開催概要

開催日:2021年12月19日(日)、12月26日(日)
時刻:両日13:30~15:00(90分)
会場:岐阜県美術館 スタジオ、アトリエ
対象展示:
「アーティスト・イン・ミュージアム AiM Voi.11 横山奈美」
対象作品:
横山奈美《forever》木炭紙に木炭と鉛筆 2021年
参加人数:10人

《forever》(部分)木炭紙に木炭 2020年 撮影:若林勇人

内容

12月19日 1日目を描く

○オリエンテーション

スタジオにいる全員のニックネームや好きな食べ物を紹介し合った後、今回のAiM(公開制作)で横山さんが制作された《forever》について簡単な説明をしました。《forever》では毎日、前日に描いた絵を見ながら、一日に一枚の絵を描き続けていくルールがあります。この後、参加者のみなさんにも「1日目」を描いてもらい、ご自宅で7日間続けていただきます…!


自己紹介タイム

横山奈美《forever》木炭紙に木炭 2020年
撮影:若林勇人

 

 

庭園を眺めながらアトリエへ

庭園を散策しながらアトリエへ

《forever》では、芝生に寝そべる女の子が描かれていますが、それは「誰にでもできる、何でもないこと」であり、コロナ禍によって皆が考えさせられたであろう「淡々と繰り返す平穏な毎日のかけがえなさ」を示しています。当館の美しい庭園を眺めながらアトリエへ向かうと、参加者の中から「こどもが幼い頃は、ここでいつまでも遊んでいたわ。」「そうそう!」という声が聞こえてきました。来年には開館40周年を迎える当館が、みなさんにとってかけがえのない毎日を過ごす場所となっていることに、嬉しさと喜びを感じます。

《forever》の前で、《forever》の1日目を描く

画材の使い方をレクチャーする横山さん

アトリエには、11月12日から横山さんが30日間休まず取り組まれた《forever》が整然と並び、木炭やイーゼルなどは制作の痕跡を表すようにそのまま展示されています。
改めて作品の目の前で、横山さんから作品制作のコンセプトを詳しく紹介していただきました。続いて、デッサン用の鉛筆や練り消しゴムの使い方のレクチャーもしていただき、参加者のみなさんによる《forever》制作がスタートしました。
「7日間描き続けることは大変だと思うので、大切にしているものや好きなものなど気持ちを寄せられるものを描きましょう。」と横山さん。みなさんに何を描こうかじっくり考えていただきながら、穏やかで静かな時間が過ぎていきました。

公開制作の現場がそのままプログラム会場に

それぞれに《forever》 1日目を描く

「26日に、7枚の絵を持ってまた会いましょう。」「楽しみですね。」と言葉を交わし、この日は終了です。

12月26日 鑑賞会

○オリエンテーションより前に…

定刻前から自然と交流するみなさん

19日同様、まずはスタジオに集合。開始時刻になる前から「7日間、どうだった!?」「見せて~?」「私、これなの。」など、参加者のみなさんが楽しそうに交流する姿が見られました。

オリエンテーション


みなさんがご自宅で7日間の《forever》制作に取り組まれたことを全員で讃えながら、当館スタッフの《forever》作品を紹介しました。《forever》を制作してみなければ実感できないことがいろいろあったのですが、例えば「2日目になぜこんな描き方をしてしまったんだろうと後悔する。」「3日目以降になると描くことが楽になる。」などの気持ちは、共通のようでした。

鑑賞会

対話をする横山さんと参加者

みなさんには、一人ずつ順番に7日間毎日描いた《forever》について、横山さんと対話をしながら紹介していただきました。
「毎日描いていくとだんだん “本物” ではなくなってしまう感じがした。」
「必ず前日のものを見て描いていたので、1日目と7日目を比べると形が全然違ってきてびっくりしたけど、それが面白かった。」
「毎日描くために、いつもより1時間早く起きるようになった。すると、その日の天候や部屋の明るさなどで、色の濃さなど絵にも変化があった。」
などの感想が寄せられました。紹介を聞いているみなさんもよくうなずき、共感や感心、発見に満ちた鑑賞会となりました。

7日分の作品を机に並べて

一人ずつ作品紹介

1枚ずつ額に入れて

展示して

整然と並んだみなさんの《forever》

改めて、鑑賞

まとめ

通い慣れたアトリエに到着

12月19日から始まったこのプログラム。最後に全員でもう一度、アトリエで横山奈美作《forever》をみて味わいました。
「こうして《forever》に取り組んだ仲間ができたのは初めてでとても嬉しい。」
この横山さんの言葉に、みなさんもとても幸せそうにされていました。コロナ禍という不安定な時世であった2021年の締め括りに、温かい時間を提供することができ嬉しく思います。

メッセージを伝える横山さん

記念撮影

参加者の声(アンケートから抜粋)

・作家の横山奈美さんとのトークができましたこと、ワークショップ全体をとおして、日常に変化が表われたこと、感謝いたします。
・皆さんの7日間の作品を鑑賞し、それぞれの場所で同じように毎日絵を描いてきた仲間ができたような気がしました。横山さんの気持ちにも少しふれられたような気がして、本当に素敵な時間が過ごせました。
・横山さんの作品の思いを体感しながら身をもって知ることができた。作品だけでなく、これからの日々、生活していくなかで、大切にしていきたいことも発見させていただけた。
・スキルや経験には差があるけれど、感じ方や体験だけでも同じことができて、いい期間でした。飽き性なところがあり、いつもと違うもの新しいものを求めてしまうことが多かったですが、「同じようでいて少し違う」という楽しみ方を学べました。とてもいい経験でした。スタッフの方も優しくやわらかい、温かいワークショップでした。

スタッフの振り返り

7日間、参加者のみなさんにご自宅で制作に取り組んでいただくことはできるのか。申込がなかったらどうしよう。このプログラムの企画案を出した時、そのような不安がありましたが申込は満員御礼。26日の解散後には、プログラム終了を惜しむように横山さんの作品《forever》を鑑賞し続ける参加者のみなさんの姿がありました。それほど、私たちが《forever》にのめり込むことができたのは、横山さんがよく口にする「失敗を受け入れる」「そのものまるごとを受け止める」といった心のもち方を、1週間かけて自身に浸透させていくことができたからではないでしょうか。相互鑑賞会の際、《forever》を描き続けていると、自分がこんな性格/性質をもった人間だったとしみじみとわかる、といった話題がありました。それがたとえウイークポイントでも、自分自身で受け入れることができたら、他の人に理解してもらえたら、私たちは心穏やかに生きることができます。
このプログラムを通して、慌ただしい日々の中で置き去りにしがちな、素直さや人の温もりを分かち合うことができ、企画者でありながらも喜びを感じています。

岐阜県図書館 楽書交流サロンでの展示風景 2022年1月19日(水)~1月27日(木)

みなさんの作品を、隣接する岐阜県図書館の1階にある楽書交流サロンにて展示紹介しました。
図書館利用の方々が足を止めて観覧してくださっている姿があり、みなさんの作品のこと、このプログラムのこと、《forever》のこと、AiM事業のことを多くの方に知っていただくよい機会となりました。

製本して返送

県図書館での展示の後、みなさんの作品を製本しご自宅へ返送しました。
《forever》が、これからもみなさんの心の拠り所になりますように。