【基礎ゼミ】第3回<美術館×作品×来館者×アートコミュニケーター>

【基礎ゼミ】第3回

実施日:2022年5月14日(土)10:00~15:00
会場:岐阜県美術館 講堂、展示室
講師:稲庭彩和子さん(独立行政法人 国立美術館 主任研究員)
著書:・こどもと大人のためのミュージアム思考 稲庭彩和子 編集・著ほか(2022 左右社)
   ・コウペンちゃんとまなぶ世界の名画 
稲庭彩和子 監修・著(2021 KADOKAWA)
美術館という場所を考え、そこにアートコミュニケーターが関わることでどのようなポジティブな化学変化が生まれるかを考えていきます。

美術館×作品×来館者×アートコミュニケーター

独立行政法人 国立美術館の主任研究員である稲庭彩和子さんを講師にお迎えしました。
3回目となる今回の基礎ゼミでは、~ながラー3期の方を中心に1期・2期の~ながラーも多く参加しました。
稲庭さんから、美術館は人と人との関わり、人と作品とを紡ぐ場所であり、共に取り組むコミュニティの形成やコミュニケーションをとることができる場所だとお話いただきました。

well-being

ウェルビーイングは「well=良い」「being=状態、あり方」が組み合わされた概念、日本語では幸福と訳される単語です。
自分の状況を客観視し、自分と他者がどう感じたかを知ったり考え、広く思いを巡らせることがwell-beingにつながります。美術館にはこれらのwell-beingの素がたくさんある場所です。

ギフト

作品や文化財はギフトであり、人は自然や文化、芸術を通して贈与を受け取ります。人々は内発的な感情を受け取り、誰かに返礼したいという想いが生まれます。
美術館はこうした贈与の集積場所となっていき、社会をつなぐ基本インフラとして、人や物と関わり、学び・遊び・実践の場などにアクセスできる場であるということが、今まで美術館にアクセスする機会を得られなかった文化や価値観の人たちにも働きかけられていくべきだと考えられます。

アートコミュニケーターの役割には文化芸術を介して人々の新しい社会的つながりを築く、という目的があります。
人々が共に取り組むコミュニティを形成し、コミュニケーションをとることが社会への参加の機会を生みます。

美術館で「ものを見る」

ニューヨークのメトロポリタン美術館の元館長であるトーマス・P・キャンベル氏の「美術館の展示室で物語をつむぐ」という動画を鑑賞しました。

この動画では美術館体験の様々な要素が考えられており、美術館での「ものを見る」ことについて考えていきました。

(外部リンク)トーマス・P・キャンベル 「美術館の展示室で物語をつむぐ」(字幕ONで日本語がつきます)
https://www.ted.com/talks/thomas_p_campbell_weaving_narratives_in_museum_galleries?language=ja

作品をみる

午後からは稲庭さんのお話や、鑑賞した動画をふまえ、~ながラーは所蔵品展示室に移動し、それぞれが好きな作品を一点選んでじっくり鑑賞をしました。
 

作品の話をする

講堂に戻り、3.4人でグループを作り、自分の見てきた作品について話し、相手の話を聞きました。
相手と自由に話を進めていくことで、多くの違った見方や可能性が引き出され、学びにつながっていきます。他の人はどう考えたのかを聞き、自分はどう捉えるかを意識していきます。

~ながラーは和気あいあいと身振り手振りを交えながら楽しそうにお話をしていました。身を乗り出して相手の方の話を聞こうとする姿勢が印象的でした。
こうした対話を通した鑑賞の場を意識して継続し設けることが、新しい喜びの場をつくることになります。

 

稲庭さんより

人の話を聞くことは自分が世界との繋がり方を獲得し、世界に目を向けることができます。社会に参加し、自分が位置付けられると、共同体の文化に参加しているという意識が生まれます。

美術館を通して、社会ともアートと関わっていく。また、美術館を飛び出し、共同的に知を構築していくことができると稲庭さんよりお話しいただきました。

〜ながラーのふりかえり

・“作品はGift、美術館はGiftの集積所”。芸術家への敬意と美術館の皆さんの前向きな気持ちが込められたとても印象的な言葉です。

・皆の納得解を見つけていく。「わかろうとしている」状態の持続が大事。

・アートを通して人々の新しいつながりを築いていこうとするとき、やろうとしていることはとても外向きなのだけれど、しっかり観察するべきは自分の内側だったり、自分の中に複数の視点を持つことだったりして面白いと思いました。

・みんなで、好きな作品を語り合った。あの時間も楽しかった。80年代アートのグループで《無題》について語った。「そうなんだこんなふうに見ているんだ。」「わかるわかるその感じ。」「えーそうそう私もそんなふうに感じた。でも言葉にできなかったけど、こうやって話せばいい、聞いてくれる人がいるので、言葉にしやすい。」いろいろ学び体験できました。

スタッフノート

稲庭さんの講座を聞き、多種多様な価値観や文化の人と繋がれるコミュニティづくりへの意識をさらに深めることができました。
午後は展示室に入り一枚の作品を鑑賞し、グループでじっくり話をしました。誰かの考えを共有して社会とつながっていく。今回の基礎ゼミを通してアートコミュニケーターとして価値観を共有できる時間になったのではないかと感じました。