開催概要

開催日
2020年12月6日(日)
開催時刻
14:00~15:30(90分)
会場
岐阜県美術館 アトリエ、展示室
対象展示
岸田劉生展 ―写実から、写意へ―
対象作品
グループごとに、以下の6点からそれぞれ3点の作品を鑑賞しました。(作者は全て岸田劉生)
《築地風景》 1911年 笠間日動美術館蔵
《夏の路(鵠沼海岸)》 1922年 笠間日動美術館蔵
《自画像》 1914年 岐阜県美術館蔵
《春閑小流》 1925年 笠間日動美術館蔵
《画人無為》 1926年 笠間日動美術館蔵
《麗子十六歳之像》 1929年 笠間日動美術館蔵

岸田劉生の生涯にわたる画業を紹介する展覧会、岸田劉生展を鑑賞して、《Such Such Such》を行うツアーを開催しました。

ツアーの流れ

グループを作って作品を鑑賞する

アトリエから3つのグループに分かれてアートツアーに出発!
岸田劉生展で対象作品を3点ずつ鑑賞しました。
作品から気がついたことや、感じたことを話したり聞いたりします。

《自画像》を鑑賞

《春閑小流》(左)を鑑賞

《麗子十六歳之像》(右)を鑑賞

メニュー表からコネクターを選ぶ

作品と自分が作品から感じた気持ちを結びつける、アートツアーの大切なアイテム「コネクター」。
今回のコネクターは「料理名」です。人物や情景が描かれた作品を見て、1人1枚配られたメニュー表"御献立"から「この場所の感じに合うと思う料理は?」「この人と一緒に食べるなら?」「この人が食べそうな料理は?」など、それぞれの観点で料理を選んで理由を交流しました。

室で食べ物の話に花が咲く、ちょっと不思議な光景

なぜメニュー表を鑑賞に使うの?

岸田劉生は美食家でも知られています。美食といっても、単に豪華な食事を好んだわけではなく、毎日の食事もより良く食すことを大切にしたそうです。劉生の著書『劉生繪日記』(全3巻)の中でも「この頃御はんがうまい、大きな幸福の一つだ」と述べ(※)、その日食べたものがしばしば登場します。
そこでこのアートツアーでは、日記に登場する料理の一部をメニュー表の形で一覧にし、劉生作品を鑑賞して感じたことを料理のイメージで表して交流することにしました。
また、普段のアートツアーでは感じたことを表すのに物を使っていますが、1人1枚メニュー表を持てば同じ物を触り合う場面がなくなるので、新型コロナウイルス感染症対策としても機能しました。

このツアーだけの特別なメニュー表「御献立」

※岸田劉生『劉生繪日記』第一巻、146項より

岸田劉生『劉生繪日記』全三巻、龍星閣

感じたことをスケッチ

3点の作品を鑑賞して、3つの料理を選びました。
鑑賞のサポートをしたスタッフが料理名を書き留めた「御鑑賞伝票」をもとに、作品を見たときの「感じ」を思い起こしてスケッチに表してみます。

作品ごとに選んだ料理がメモされた「御鑑賞伝票」

スケッチと「写意」

今回の展覧会名は「岸田劉生展 ―写実から、写意へ―」。岸田劉生は、心を以って心を描き出す「写意」、自分の中にあるたったひとつの真実の美「内なる美」を追求した画家です。アートツアーで行うスケッチも、自分の心が感じたことを自由に描き出す活動です。劉生の目指した写意を思いながら、それぞれのスケッチを行いました。

作品から感じたことを思い起こして、描きたいままにスケッチ

みんなのスケッチを見る

スケッチをみんなで見てみます。
展示室内での密を避けるためグループごとに見た作品が少しずつ違いますが、「あの作品でこの料理だったんだ」「こんな表し方もあるんだね」とスケッチと料理名を見比べながら、共感できるところ、自分と違う感じ方を見つける時間になりました。

グループごとに1人ずつ、今日の鑑賞についてお話ししてもらいました

選んだ料理を、感じたことに近くなるよう再現したスケッチ

味や感覚など形のないものが表れたスケッチ

印象に残った作品のモチーフが表れたスケッチ

作品を鑑賞して

・《自画像》は展示会場に2点ありました。50代の女性は、ツアー対象作品の《自画像》1914年を《自画像》1913年と見比べて鑑賞し「目がはっきりして口角も上がっていてうれしそうな感じ」と語り、コネクターにはメンチカツを選びました。同じく50代の別の女性はライスカレーを選択。けれど、選んだ理由は同じく「うれしそうな感じ」だからとのこと。同じことを感じても、イメージする料理が違うところが面白いですね。
・色鮮やかな着物に髪飾り姿の劉生の愛娘《麗子十六歳之像》では、麗子が好みそうというイメージから「シュークリーム」や「紅茶」が選ばれる一方、格好の華やかさに注目して「鮨を食べに行く様子」をイメージした参加者も。「玉子とか、えびとか…」という想像が「かわいい」と共感を呼んでいました。

参加者の声(アンケートより抜粋)

「見る人の年齢などによっても見方が変わって、思い浮かぶ献立が違っていて、おもしろかったです。」
「初めて会った人でも話がしやすかったです。楽しく参加できました。」
「食べ物をコネクターにするという鑑賞方法がおもしろく刺激的でした。」
「50年ぶりぐらいに色鉛筆をもちました。」
「楽しかったです。おなかがすきました。」

作品に近づく時は、密集しないよう順番に

ツアーの説明を聞く様子

スタッフの振り返り

いろいろな料理を作品鑑賞に登場させるのは初めての試みでした。作品を見ながら「私は、鰻ですね」とか「シュークリームです」とか話すだけで面白いし、何となくその気持ちが分かる気がしてくるのもおかしくて、個人的にとても楽しい時間でした。

今回は感染症対策のため、"非接触"が裏テーマのツアーでもありました。
1グループの人数をスタッフ含め4人までとし、お互いの物を触り合わないよう道具の扱いも工夫しました。さらに会話する際の距離や、体の向きにも気を配り…と、ツアーの中身以外の場面でも“注文の多い”プログラムとなりましたが、参加者の皆さんのご協力で、笑顔で和やかに活動することができました。

これまでコネクターは、目で見て色や形が分かったり、触って質感を確かめられる物を用意することがほとんどでした。しかし感染症対策をきっかけに今回のような、実際に物がなくても、お互い距離をとっていても成立する「実態のないコネクター」を生み出すことができました。
コロナ禍にあっても美術館を楽しんでいただけるよう、今後も工夫を続けていきますので、ぜひまた遊びに来てくださいね。