【基礎ゼミ】第2回「美術館×作品×来館者×アートコミュニケーター」
【基礎ゼミ】第2回
実施日:2024年4月27日(土) 10:30〜15:00
会場:岐阜県美術館 講堂、展示室、アートコミュニケーターズルーム(以下ACルーム)
講師:稲庭彩和子さん(国立アートリサーチセンター 主任研究員)
美術館×作品×来館者×アートコミュニケーター
国立アートリサーチセンター 主任研究員である稲庭彩和子さんを講師にお迎えしました。
稲庭さんから、美術館は人と人との関わり、人と作品とを繋ぐ場所であり、共に取り組むコミュニティの形成やコミュニケーションをとることができる場所だとお話いただきました。
また、アートコミュニケーターは鑑賞者の「自分で作品をよく観察して思考を巡らす」力を促し、作品や美術により深くアクセスできるよう、コミュニケーションを大切にすることが必要であると教えていただきました。
well-being
ウェルビーイングは「well=良い」「being=状態、あり方」が組み合わされた概念、日本語では幸福と訳される単語です。
well-beingは社会の中でコミュニティや関わりをもつことが必要であるとされており、美術館で作品を鑑賞することは、well-beingにつながる要素がたくさんあると考えられています。
「~ながラー」は、それぞれが幸せだと感じる瞬間(well-being)の思いを巡らせながら、社会との関わりや美術館とwell-beingの関係についてのお話を興味深く聞いていました。
美術館で「ものを見る」
ニューヨークのメトロポリタン美術館の元館長であるトーマス・P・キャンベル氏の「美術館の展示室で物語をつむぐ」という動画を視聴しました。この動画では美術館体験の様々な要素が考えられており、美術館での「ものを見る」ことについて考えました。
鑑賞者がそれぞれの経験をもとに、作品の奥にある背景を想像したり考えたりすることで、作品への理解が深まり、作品鑑賞への楽しさにつながっていくことがわかりました。
また、作品を介してできる深いコミュニケーションをいかし、人と人との関わりを通して新しい価値をつくり出していくことが、アートコミュニケーターの楽しみでもあると、稲庭さんからお話しいただきました。
(外部リンク)トーマス・P・キャンベル 「美術館の展示室で物語をつむぐ」(字幕ONで日本語がつきます)
https://www.ted.com/talks/thomas_p_campbell_weaving_narratives_in_museum_galleries?language=ja
対話型鑑賞(VTS)
イザベラ・スチュアート・ガードナー美術館の学校連携プログラムを特集した動画「アートを通して考える」を視聴しました。
時間をかけて作品をみることで、鑑賞者は自身の経験と照らし合わせ、絵からより多くのことを発見し、どのような物事に対しても、自分なりの意味を組み立てる力がつくようになります。
動画をみることで、対話型鑑賞の意義や対話の流れ、鑑賞者の反応等、実践的な対話型鑑賞をイメージすることができました。
(外部リンク)
Thinking Through Art: The Gardner’s School Partnership Program
「アートを通して考える。ガードナー 学校連携プログラム」(日本語字幕なしですが、鑑賞している子どもたちの様子がよくわかります)
www.youtube.com/embed/p-ex90ezADI
作品をみる・作品の話をする
午後からは稲庭さんのお話や、鑑賞した動画をふまえ、「~ながラー」は所蔵品展示室に移動しました。展示室全体の作品を10分ほど見た後、グループに分かれて特定の作品を鑑賞しました。5分じっくりと鑑賞して気づいたことや発見したことを書き出し、10分ほどグループ内でその作品について話し合いました。
「〜ながラー」は身振り手振りを交えて作品の表現や技法について考えたり、作品のモチーフについて意見を交わしたりしました。活動を通して、自身の見方や感じ方とは違った意見にふれ「本当だ」「確かにそう見える」と新たな気づきに喜びの声をあげていました。熱心に作品について対話する様子が印象的でした。
発表
ACルームに戻り、話しきれなかったことや新たに気づいたことなどを、作品の画像をみながらさらにグループで話し合いました。作品を前にして話すのとは違った見方ができ、話が尽きない様子でした。その後、各グループで出てきた意見や感想を発表し合いました。
発表の後は、アートコミュニケーターとして来館者と作品をみる場をデザインする際のイメージを構築するため、東京都美術館で実施された学校連携の様子の動画を鑑賞しました。
(外部リンク)東京都美術館で実施されたワークショップの活動の様子
学校プログラム スペシャル・マンデー
合理的配慮
最後に、独立行政法人国立美術館国立アートリサーチセンターから発行された「合理的配慮のハンドブック」を活用して、美術館の立場から、対話を通してあらゆる人の要望を可視化し、着地点を模索して対応していくことの大切さをお話しいただきました。
「〜ながラー」のふりかえり
・「100年の人生をどう生きるかを考える為の手段、としてのアート」という考え方が、非常に説明しやすく分かりやすい言葉だと感じました。I•We/Society•Universeの「よりよく生きる」美術を通したゴーグル、使いこなしてみたいです。
・作品を見て楽しむとは、歴史的背景を知っていることでも、作家の意図を言い当てることでもなく、「自分でものをよく観察して思考を巡らすこと」という解説が印象的でした。
・先生の解説に加え、VTSに関する映像(VTSで伸び伸びと作品の解釈を楽しむ子どもたちの様子)を見た講義後は、「私はまず作品と向き合うところから始めたらよいのか!」と肩の力がふっと抜けたような感覚になりました。また、他の方と一緒に作品について語り合う時間が、こんなにも楽しいものだとは思いませんでした。自分一人の脳だけでは辿り着けない様々な解釈を知ることの面白さを学びました。このような「作品を味わい思考を巡らす楽しさ」を、もっと色んな人に味わってもらいたいという気持ちが、今日の基礎ゼミを経ることで高まりました。
スタッフノート
作品を鑑賞し自由に対話をすることで、多くの違った見方や可能性が引き出され、学びにつながっていきます。鑑賞者は他者の考えを聞き、自分はどう捉えるかを意識していきます。
「〜ながラー」は、稲庭さんの講座を聞き、動画を視聴し、実際に作品を前に対話をすることで、対話型鑑賞とはどういったものなのか、ウェルビーイングとは何か、美術館は社会にとってどんな存在であるかを学びました。アートコミュニケーターとして意識すべきことや活動の方向性を見出す時間になりました。今後の活動にいかしていってほしいです。