ホモ・サピエンスの鳴き声丸
「この舟のろう方式」による活動の記録を、「〜ながラー」の視点からふりかえり、アーカイブとして掲載します。
今回は「ホモ・サピエンスの鳴き声丸」による、「アートを『なきごえ』で楽しもう!」の企画の様子をお届けします。
◇舟の紹介
舟の名前:ホモ・サピエンスの鳴き声丸
舟の概要:作品を鑑賞して得た言語化しにくい感覚を「なきごえ」(作品を見た感覚を表す擬音や擬声語を示す造語)で表現する。体験者が直感的に音のリズム・響きや動きで自身の感覚を表現しあい、感覚や表現の違いを体感する場を目指す。
活動期間:2024年4月~2025年1月
メンバー:
3期:中山大輝
5期:青木聖、伊藤美陽、種田さえ、柏淵真里、桐山日菜子、村瀬美恵子
〜「アートを『なきごえ』で楽しもう!」ができるまで〜
「なきごえ」とは?
「なきごえ」とは、「ホモ・サピエンスの鳴き声丸」による企画内では、作品を見て感じたことを表現する、擬音や擬声語のことを指します。一般的な「鳴き声(=動物の声)」と混同しないように、また親しみやすさを込めて、平仮名で「なきごえ」と表記しています。
舟のはじまり
「ホモ・サピエンスの鳴き声丸」は、3期中山さんの次のような呼びかけから始まりました。
「鑑賞の体験を、『意味のない言葉』で表現するという舟をやろうと思います。
鑑賞を言葉で表現するというよりも、もっと根源的で曖昧な方法で表現してほしいと、思いついたものです!
一緒に参加者と『ないて』みることで、面白い体験をしてみませんか?」
この呼びかけに応える形で、2024年度の第1回基礎ゼミをきっかけに5期のメンバーが合流し、舟が漕ぎ出しました。
企画準備、2つの難所
企画の実現までには、大きく2つの難所が待ち構えていました。
①解散の危機も?ミーティングの進め方
第1の難所は、ミーティングの進め方。「~ながラー」1年目の5期メンバーがほとんどで、基礎ゼミもほぼ受けていない段階で漕ぎ出したこの舟。ミーティングの日程設定もうまくいかず、「もしかすると、解散するかも……」という時期もありました。しかし、並行して受講した基礎ゼミでの学びを打ち合わせに取り入れていくことで、ミーティングの進め方が上達するとともに、役割分担も自然にできていき、場面ごとに訪れる「忙しい誰か、参加できない誰かを補い合う協力体制」ができていったことも大きな変化となりました。
②最大の壁、企画書づくり
最大の難所は、企画書づくりでした。当初は「なきごえを叫ぶ」ことが盛り込まれていたこともあり、美術館という公共の場で実現するには課題が多く、厳しいフィードバックも受けました。
「この舟の核は何か?」「美術館という公共の場で実現するためにはどうすればよいか?」「だれもが楽しめる企画にするには?」「『なきごえ』とはそもそも何か?」
そうした問いと向き合いながら、熱い議論を重ねて企画書を練り上げました。
それぞれの考えやゴールのイメージをすり合わせる中で、「感じ方や表現の仕方が人それぞれであり、自分と他者の感じ方・表現を大切にできる企画にしたい」、「表現することを身近に感じて、日ごろから楽しんでほしい」という思いが舟の核となり、企画は少しずつ形になっていきました。
作品決定、そして開催へ――
対象にする作品が決まったのは、2024年11月3日、アートコミュニケーター募集イベント「~ながラー鳥観図vol.4」の日。その当日行われていた、日比野克彦館長によるライブペインティング。描かれた様々な場面、色、そして筆の動きから、たくさんのなきごえが浮かんできます。また、展示室内ではなくエントランスで展示されているので、声や動きをともなうこの企画と相性が良いと感じました。何より、鳥観図での館長やゲストスピーカーの方の言葉に奮起した我々。何とか年内に、そして館長の作品でやりたい!というメンバーの言葉で、開催に向けて進もうと決断。しかし会期は12月8日まで。残された時間はわずか。
急ピッチでミーティングを重ね、リハーサルを行い、準備を整えていきました。
そして迎えた2024年12月7日、我々の舟は本番に漕ぎ着きます。
そして迎えた当日
企画の宣伝ポスター掲示が開催1週間前からとなってしまい、参加者が集まるか、不安の中迎えた本番当日。しかし、他の舟のメンバーによる呼び込みもあって、なんと予定の10人を超えた15人の方が集まり、イベントがはじまりました。
○アイスブレイク
簡単な説明の後、まずはアイスブレイク。「1本の木を想像してみてください。そして、その木になりきってみましょう」というファシリテーターの声にあわせて、みんなでゆらゆら。そして実をもぎ取り、リレーのように渡していきます。参加者とメンバーの緊張もほぐれたところで、作品の前に向かいます。
○なきごえワーク
まずは作品をじっくり見ることから。「いろんな線や色で描かれています。どんな場面が描かれているでしょうか。この絵の中で何が起こっているか、想像してみましょう」というファシリテーターの導入で、作品に近づいたり、遠ざかったりしながら作品を鑑賞。
そして、リレー形式で順番になきごえを出していく「なきごえワーク」へ。くるくる回ったり、手をはばたかせたり、2人で一緒にないたり。個性あふれるなきごえが作品の前で繰り広げられました。
無理にないていただくのではなく、「なかないこと」も大切にしたいと、なかずにパスしたい時に次の方に見せる「あじわい中」カードも用意。なきごえワークで実際に活用いただけたうえ、普段の生活でも使いたい!と持ち帰る方もいらっしゃいました。
最後は作品の前で「なきごえポーズ」をとって記念撮影。大盛況のうちに企画は幕を閉じました。
参加者の感想
参加者アンケートには次のような声が寄せられました。
・絵画は静かに鑑賞しなければと思っていたので、とても楽しめました
・同じ作品に対して人それぞれ感じ方が違うことを知れました
・生活の中でやってみると楽しそう
このように、まさに我々が受け取ってほしいと思っていたメッセージを、企画を楽しみながら受け取ってくださったということが分かり、胸が熱くなりました。
今後の展望
今回の「アートを『なきごえ』で楽しもう!」では、作品を見て感じたことを、「なきごえ」という身体表現で楽しむ方法を提案し、参加者の方に楽しんでいただくことができました。
これからも作品とのかかわり方を探り、来館者の方々と一緒に楽しみながら味わっていきたい、そして、だれもが親しめる美術館になれば、という思いを新たにする機会になりました。
ホモ・サピエンスの鳴き声丸はいったん解散となりますが、ここで学んだことや、議論の中で飛び交ったアイデアを糧に、これからも活動に邁進していきます!
メンバー感想
・舟のメンバーと深い話を重ね、とても有意義な時間を過ごす事ができました。ありがとうございました。参加者の方々にも楽しんでいただき、「〜ながラー」として少し自信がつきました。ACスタッフの皆様、アドバイスや実施当日に手伝っていただいた「〜ながラー」の方々にも感謝いたします。この舟の経験を活かし、岐阜県美術館に様々な方が集うよう、少しでもお手伝いできたらと思っています。「〜ながラー」活動を通じて、自分がどう変化していくか楽しみです。(種田)
・企画実施までの段階で、ミーティングのやり方や、自分の考えの伝え方、舟のメンバーの思いや考えをまとめていく過程、美術館という公共の場でイベントを実施させていただくということ…ここでは書ききれないたくさんのことを学ぶことができました。この舟で学んだことを、今後の様々な活動の中で活かしていきたいと思います。
実施までにたくさんたくさん話し合いをした舟のメンバー、アドバイスやお手伝いしてくださった「〜ながラー」の方々、親身に相談に乗ってくださりサポートして下さったスタッフの皆様には感謝しています。ありがとうございました。(伊藤)
・「面白そう」という気軽さで参加し、途中「できないかも」と思ったタイミングが訪れたけれど、その時々で、ゼミ講師の方であったり、舟メンバー以外のアドバイスであったり、スタッフの方の力で、立て直すことができました。またゼミで学んだことを生かして成長を実感しながら進むことができました。
核をしっかり決め、あとは変化を楽しみながらあきらめないで進むことの大切さを感じました。楽しい活動に参加でき感謝です!(村瀬)
・実際のイベントの際は他の用事と被り参加できなかったが、舟の計画から実行まで行えたのは大変良い経験だった。言語の前の段階の自分たちで定義した「なきごえ」という概念を中心に作品を見て得た感覚を出力するという抽象度の高いワークではあったが、実際に活動を行うことができたのと共に抽象度の高い初めての活動に対して、何を具体化して企画書にまとめ計画を立てるべきかということもよく理解できた。同舟の皆様や美術館職員の皆様に改めて実行や計画・サポートいただき、本当にありがとうございました!(青木)
・私は、企画の後半は病院に入院していたため、前半のみの参加になりました。舟に乗るのが初めての状態で、どのように進めていけばいいのか迷うことが多々ありましたが、勢いよく参加して、自分たちでつくりあげる楽しさを味わわせていただきました。こんなことを言ってもいいかなという迷いや、なかなか参加できない状態で不安を感じていた中で、舟の仲間が、私の発言を認めてくださったり、参加を歓迎してくれて、あたたかい支えのある中で気持ちがやわらぎ、うれしい気持ちで舟に乗ることができました。その見事な舟の漕ぎっぷりは、このまま解散するのが惜しいくらいです。舟は解散となりますが、この鳴き声丸で経験したことを胸に、また次の舟を楽しく漕いでいきたいし、今回の舟で関わることのできたメンバーにも次の舟でますます活躍していただきたいなあと思っています。(柏淵)
・舟の名前とコンセプトに惹かれて乗船。なきごえ鑑賞を経験したことで、作品を見て受ける感覚に敏感になったり、作品はどんな「なきごえ」を発しているだろう?と想像してみるようになり、鑑賞体験が豊かになりました。このような感覚をいかに皆さんに共有できるか、ということはもっと考えたかったです。しかし、今回は皆さんの楽しそうな顔を見て「ああ、今回はこれでよかった。やれて良かった。」と思えました。ここには書ききれないたくさんの苦労や喜び、学びを踏まえて、これからも「〜ながラー」の活動に邁進していきます。(桐山)
・参加者の方も大勢来られて大成功でしたね。皆さんに拍手です。(中山)
**実施イベント**
⚫︎イベント名:「アートを『なきごえ』で楽しもう!」
⚫︎活動日時:2024年12月7日(土)14:30~15:30
参加者:15名(大人:10人、子ども:5人)
当日参加メンバー
メンバー
種田、桐山、村瀬(ホモ・サビエンスの鳴き声丸・5期)
当日サポート
鈴木、平光、水井(5期) 計6名
執筆者:中山大輝(3期)、青木聖、伊藤美陽、種田さえ、柏淵真里、桐山日菜子、村瀬美恵子(5期)