2022年度 実践ゼミ2「アクセスと〜ながラー」

全7回の基礎ゼミを終えた~ながラーの学びをより深める実践ゼミを「作品鑑賞と~ながラー」「アクセスと~ながラー」「地域資源と~ながラー」のテーマの3本立てで実施しました。

実践ゼミ2「アクセスと~ながラー」では多様な背景をもつ来館者に寄り添い、美術館を楽しんでもらうためにアートコミュニケーターとしてどのような意識をもって美術館に存在すればよいか考えます。一人一人に合わせたサポートは何だろう?自分たちにできることって何だろう?多様な人と関わり実践しながら考えていく全6回のゼミです。

担当:近藤優紀・濱野かほる

第1回『いぶき福祉会さんに話を聞いてみる』

実施日:2022年9月10日(土)13:00~15:00
場所:岐阜県美術館 アートコミュニケーターズルーム

岐阜県美術館とも関わりの深い、岐阜市にある福祉施設「社会福祉法人いぶき福祉会」(以降「いぶき福祉会」と表記)の北川雄史さん、森洋三さん、山本友美さん、大堀愛子さんを講師にお招きしました。

福祉施設での活動やスタッフの方の取り組みについてお話いただきました。
地域の方とつながりをもつことを意識しながら、利用者さんとの気持ちの共有をし、障がいのある人だけでなく、誰もが寛容に暮らせる社会を目指し、その中で役割を考えているそうです。

実践ゼミ2の最終回(12月17日)にいぶき福祉会の利用者の方とスタッフの方をお招きし、~ながラーと共に美術館で活動をすることを目標に設定しました。その上で、利用者さんや福祉施設のスタッフの方が美術館に対して感じている心理的・身体的なハードルを乗り越えるために、自分たちに何ができるかについて、いぶき福祉会のスタッフの方を交えながら話し合いをしました。
岐阜県美術館といぶき福祉会とでともに行う活動に向け、これからのゼミで学び、準備を進めます。

第2回『アーティスト・イン・ミュージアム アトリエプログラム運営実習』

実施日:2022年9月30日(金)、10月2日(日)、10月7日(金)、10月8日(土)、10月9日(日)、10月10日(月・祝)
場所:岐阜県美術館 アトリエ

「アーティスト・イン・ミュージアム Vol.12 大平由香理」の関連プログラムである「描いたり、切ったり、貼ったり 川にいるものをつくろう!」にて、作家と参加者の間に立ち、様々な来館者に対してどのような寄り添いが必要か考えるために〜ながラーが運営スタッフとして参加しました。

会場の準備や参加者の方の受付をはじめ、創作活動中は参加者に声掛けをし、制作に不足した道具があれば補充していきます。
参加者の個性に応じて、見守りながら手助けが必要な人には声掛けをするなど、安全も確保しながら、参加者の自由な創造を膨らませるような楽しい雰囲気づくりを意識します。

大平さんや参加者の方との交流をしながら、この場をつくる一員である運営スタッフ自身が笑顔で、楽しく活動するように意識をしました。

第3回『中間のふりかえり』

実施日:2022年10月16日(日)10:30〜12:00
場所:岐阜県美術館 アートコミュニケーターズルーム

第2回に実施した「アーティスト・イン・ミュージアム アトリエプログラム運営実習」のふりかえりと、実践ゼミ2最終回(12月17日)でいぶき福祉会の利用者と美術館でどのような活動を実施するか、これまでの経験を踏まえて考える時間としました。

これまでにチャレンジしたことから難しかったこと、改善点や他のメンバーに聞いてみたいことなどをふりかえりました。それぞれが運営スタッフとして参加する中で多様な人(参加者)と出会い、それぞれが考え、行動し、また考える。この積み重ねが、多様な人と関わっていく中で経験値となり、次の活動への学びにつながっていきます。

この日の話し合いで、「12月17日はいぶき福祉会の方と一緒に岐阜県美術館を楽しみながら活動したい。」という意見が出ました。~ながラーとして、利用者の方にできるだけ気持ちよく美術館で過ごしていただけるようにサポートする準備をこれからのゼミで考えていきます。

 

第4回『いぶき福祉会施設訪問』

実施日:2022年11月16日(水)、11月21日(月)10:30~11:30
場所:いぶき福祉会 第二いぶき(岐阜市出屋敷493)

いぶき福祉会の関連施設(事業所)へ訪問し、利用者の皆さんやスタッフの方の取り組みを間近で見学させていただきました。

染め、美濃和紙を漉く、張り子の人形をつくる、お菓子のクラッカーやポン菓子、ジャムの製作等…全員が同じことをするのではなく、利用者の皆さんそれぞれが得意な作業をしています。

スタッフの方によって、利用者の方が主体的な活動を行えるようなサポートや環境づくりが工夫されており、“すごす場所の雰囲気をよいものにしよう”という意識を随所から感じることができ、学びが多くありました。

第5回『12月17日の事前打合せ』

実施日:2022年12月11日(日)、10:30~12:00
場所:岐阜県美術館 アートコミュニケーターズルーム、展示室等

12月17日にいぶき福祉会の利用者さんと美術館を楽しむために、当日のタイムスケジュールの確認や気を付けることの共有を図るための事前打合せをしました。

また、この日は美術館施設内の各活動場所で車いすの操作・介助の体験を行い、案内の仕方について理解を深めました。普段の自分たちと異なる目線から環境を見てまわりました。
来館する方に安心して気持ち良く過ごしてもらうにはどうすればよりよくなるか、誰かの目線で考えてみると様々な気付きが生まれ、活発な意見交換の場になりました。

気付いたことは当日を迎えるまでの準備に反映させ、当日を迎えます。

第6回『いぶき福祉会の仲間の皆さんと美術館を楽しむ&実践ゼミ2のふりかえり』

実施日:2022年12月17日(土)10:10~12:00、13:30~15:30
場所:岐阜県美術館 アートコミュニケーターズルーム、館内各所

午前の部:いぶき福祉会の皆さんと美術館を楽しむ

いぶき福祉会の皆さんをお迎えする前に運営スタッフと~ながラーで活動の流れの最終打合せを行いました。
いぶき福祉会の皆さんをお迎えし、~ながラー1〜2名といぶき福祉会の利用者さん1名、いぶき福祉会のスタッフの方とチームに分かれ自己紹介をしながら交流を進めました。

美術館で活動できることの一覧を~ながラーと共に見ながら、利用者さんと美術館で何を行うか相談しながら決め、活動場所に向かいました。

展示室で作品をみる、ワークシートに挑戦してみる、庭園を散歩してみる…など美術館での過ごし方に選択肢があります。美術館を自分のペースでまわりながら、困ったことや話したいことがあれば一緒に活動する~ながラーと交流を進めます。

~ながラーも初めて出会う人とのコミュニケーションで戸惑うこともありますが、相手のことを知ろうと寄り添うことで気付けたことがありました。

アートコミュニケーターとしての活動が、美術館での活動の壁を下げていくことにつながれば、だれもが美術館を楽しむことができます。その役割を担うことで、人と人をつなぐ手助けができます。

(参加者:〜ながラー13名/いぶき福祉会21名)

 

午後の部:実践ゼミ2のふりかえり

午後からはアートコミュニケーターズルームに集まり、第1回でも講師にお招きした「いぶき福祉会」の北川雄史さん、森洋三さん、山本友美さん、大堀愛子さんと共に、午前中の活動のふりかえりと実践ゼミ2の全体の総括を行いました。

実践ゼミ2「アクセスと~ながラー」は、そもそもどのようにして始まったのか想起してみるとともに、9月から始まった全6回の活動や、「午前の部」の活動のふりかえりをしました。

それぞれがチームごとに異なる楽しみ方をしており、展示室に鑑賞に行く方や、ワークシートを楽しむ方、庭園での散歩を楽しむ方など、決まったプログラムではなく、それぞれの個性にアートコミュニケーターが寄り添う事で、多面的な楽しみ方を体感できたと活動をふりかえりました。

〜ながラーのふりかえり後、いぶき福祉会のスタッフの方に「お互い気持ちよく過ごすためにはどんなことが必要か?」とうかがってみました。スタッフの方たちも自身で学び・実践を繰り返しながら、利用者の方とよりよい関係を築くために工夫や調整を繰り返し行っているとおっしゃっていました。

誰でも居心地よく過ごせて、多様な人々がアクセスしやすい美術館になれるよう、アートコミュニケーターとしてできることを運営スタッフも共に考え、学び、経験を今後に活かしていきたいです。

 

~ながラーのコメント

・見学の最中は、ほかの人たちの活動を見る余裕はなかったのですが、ふりかえりで聞いたみなさんの活動がとても興味深く、一人一人全然違う楽しみ方をされていたのが印象的でした。「ちゃんとしなきゃ」と思い過ぎなくていいんだ、というのにもうなずけたし、準備を重ねていくのも大事なことだし、両方ですね。これからも、だれでも気軽に来てもらえるための活動ができたらと思います。

・「インクルーシブ」は今の時代最も重要な言葉であると思います。社会活動においても、企業や学校内においても、自分の発言が肯定的に受け止めてもらえ、自分の存在を感じられる環境というものが、多様な人々の知恵を結集していくために欠かせないものです。我々は基礎ゼミ、実践ゼミを通して、ずっとこれを学び実践してきたので、いぶきの仲間にも通じたのではないかと思います。双方のこれまでの長い準備が実を結び、無事、いぶきの仲間を迎えることができましたが、午後のふりかえりの中でも皆さんがコメントされていたように、いぶきの仲間たちのおかげで、我々も、いぶきのスタッフの皆さんも多くを学んだ1日でした。

・第1回目を無事に終えることができたので、今後は定期的にこのような機会を作れるといいなぁと思います。その中で、問題点を見つけ、改善する…を繰り返すことで、どんどん美術館が身近な場所になっていって欲しいです。