林武史さんと月見台を楽しむ会〈月見台丸〉

「この舟のろう式」による活動の記録を、〜ながラーの視点からふりかえり、アーカイブとして掲載します。
今回は<月見台丸>が開催した「林武史さんと月見台を楽しむ会」の様子をお届けします。

【活動期間】2022年3月〜11月

【メンバー】平岡靖教 吉原真由美 生方夕輝 杉山正彦 中嶋裕巳 高木尚子 溝口美保 塚本幸恵 濵博江 馬渕明美 中村佐和子 宮原紀子 中山みどり

【対象作品】岐阜県美術館野外彫刻 林武史《立つ人−月見台》

2021年12月 きっかけ

この舟のきっかけは、Zoomで開かれたオンライン忘年会でした。
1期生の〜ながラーにとって、2022年は卒業まで最後の年度。ラスト1年で、卒業までに何かやりたい事は無いか?とみんなで話していました。

このイベントの発案者である平岡さんが「月見台って、あまり見ている人もいないし、他のチームでも取り上げられる事が無いけど、なぜか気になる」と話すと、

「月見台って言うぐらいだから、ここから本当に月を見たら面白いよね」
「月見団子食べたり、お酒飲みながら月を見れたらいいね」
という意見が他の人からも飛び出し、話は盛り上がりました。

しかし、これはお酒の席での出来事。年越しなどの忙しさもあり、その後しばらくこの話が出ることはありませんでした。

2022年3月 呼びかけ

年末に案が出てから約3ヶ月。忘年会で話をした〜ながラーの1人から
「月見台の話はどうなった?」と話題があがりました。
一度呼びかけてみて、3人以上集まったらやってみよう!という話となり、呼びかけてみる事になりました。

呼びかけてみると、なんと13人の精鋭たちが名乗りを上げてくれ、〜ながラー史上最大級の人数で進む大きな舟となりました(〜ながラーの活動は、一つ一つのチームを舟と呼ぶ。3人以上集まればチーム成立→舟出発!という流れになる)。

2022年4月 実際に月を見てみよう

4月9日の夕方、実際に月見台から月を見てみる事にしました。

この日は夕方から月がキレイに見え、月を見るにはバッチリな日でした。
「月見台で月を愛でながら一緒の時間を過ごすだけでも幸せで心豊かな時間になる。」などの意見が出て、イメージが具体化されていき、このイベントを成功させたいという思いがふつふつと強くなっていきました。
後日メンバーで話し合い、ちょうど十日夜にあたる11月3日、岐阜県美術館の無料開放日に開かれる様々なイベントの締めに、ゲストとして作者の林武史さんをお招きし、みんなで月見台からお月見を出来たら素敵!という意見にまとまりました。

月見台から月を見た時の感動を胸に、我々舟メンバーは意気揚々と美術館へこの企画を提案しました。美術館を通じて、林さんにこの企画についてお話したところ、残念ながら11月3日は林さんの都合が合わないという返答。

しかし、ありがたい事に林さんはこの企画へ興味を持ってくださり、11月27日ならOKですとお返事をいただき、イベントの日にちが確定しました。

 

2022年5月 日比野館長からのアドバイス

この企画を進めるにあたり、日比野館長へ相談しました。すると、「事前に林さんのアトリエでお話を聞き、林さんの人となりを知ったほうがいい」というアドバイスをいただき、舟メンバーで白川町にある林さんのアトリエを訪問することになりました。

訪問にあたり、~ながラー全員に林さんへの質問を募集し、メンバー以外の~ながラーも参加出来るよう心掛け、このイベントにできるだけ多くの人を巻き込んでいくように進めていきました。
我々も林さんの作品について勉強し、林さんとどんな企画をしたいか、林さんはお会いしたらどんな人なんだろう??など楽しみにしながら訪問までの日にちを過ごしました。

2022年8月 林武史さんのアトリエへ

8月21日(日)晴天に恵まれ有志で白川町の林さんのアトリエ訪問へ行きました。

「いらっしゃい!」とアトリエから現れた林さんは白川町の山によくお似合いの気さくな方で、段取りや質問内容などで緊張していたメンバーの気持ちは一気に和みました。

アトリエのあちこちにある石たちのルーツを伺ったり、林さんのアトリエを拝見したり、作者の方とお話ししながら林さんの作品を鑑賞できる贅沢な時間を過ごしました。

自然の中にある作品は猪に穴を掘られたり、天候に影響されたりして日々形を変えていっているそうです。林さんはそんな変化も楽しんでいらっしゃる様子でした。
完成当初から自然と共に形を変えている岐阜県美術館にある作品たちの様子も喜んでいただけるのではないかと感じました。
広大な公園内にある作品群を観た後、いよいよ舟メンバーや~ながラーから預かった質問についての質疑応答タイム。

一つ一つの質問に丁寧に答えていただき予定時間を大きく過ぎて1時間以上たっぷりお話を伺いました。
現在のスタイルの作品を制作されるようになった経緯、石を使うときに感じていること、月見台に対する思いなどを伺いました。

林さんの「月見台にわざわざ乗っかって座って、見る月って言うのは、ある種特別であって欲しいような気がする。月はどこでも見られるもんね。月見台に乗る時に、何か変わったという自分がいたら面白いかな。」という言葉がメンバーの心に刺さりました。

私たちのイベントを通してこんな気持ちになってくれる人がいてくれたら、そしてその瞬間を林さんと共有できたらとても素敵な時間になるのではないか、という予感がしました。
林さんのお人柄に触れ、お招きして今日来られなかったメンバーや来館者の方々と一緒にお話を伺えることがとても楽しみになりわくわくした気持ちで帰途につきました。

質疑応答のあまりの盛り上がりに電車参加組は乗るはずだった電車に間に合わず、1時間以上白川口駅で過ごした時間も楽しい思い出となりました。アイスクリームがおいしくてオススメです(笑)

2022年11月 イベント開催に向けて

イベントの内容詳細の検討、参加者募集の広報やその他事前準備に取り掛かり始めました。13人という大勢が乗り込んだ舟、そして住んでいるところもバラバラで、平日は仕事などがあり、活動の時間は限られましたが、LINE等を使った連絡は、ほぼ毎日のように取り合い、情報を共有し合いました。そんな中でも、月見台という作品をテーマにしているので「月」への興味が深まりました。イベント当日の月の高さを調べたのはもちろん、毎日どこかで浮かぶたったひとつの月に、それぞれが離れた場所から思いを寄せ、それを共有しあった時間は素敵なものでした。

イベントは、アトリエでのオープニングから始まり、庭園へ移動し作品鑑賞、その後、トークタイムという流れに決まりました。作品の前でイベント参加者とどのように鑑賞するか、つまり対話型鑑賞については、結局イベント前日までずっと舟メンバーが考え続けたことでした。鑑賞時間や、動線、ファシリテーターとしての「〜ながラー」の関わり方。事前にリハーサルを繰り返したり、話し合いの時間を多く持ちました。そんな中、イベントの前日に、日比野館長にお会いする機会があり、思いを伝えたところ、作品だけでなく、その周りにある自然などを含めて、感じて楽しむことや、参加者に楽しんでもらうためには、まず自分たちが楽しむことだというアドバイスをいただき、私個人としてはその言葉に力をもらいました。そしていよいよ当日を迎えました。

2022年11月27日(日) イベント当日

当日は、天気にも恵まれ、参加の事前予約をしてくださった一般来館者の方や、〜ながラーを含め20人ほどの参加者がありました。アトリエでのオープニングで林武史さんがご登場。その後三つのグループに分かれて、《月に吠える》、《立つ人ー月見台》、この二つの作品を人工の川を挟んだ対岸から、それぞれ8分間、交代で鑑賞しました。それぞれのグループには、舟メンバーとサポートメンバーとして参加してくれた〜ながラーが付き、作品に乗ったり、触ったり、周りの木を見上げたり、空を見上げたり。その中に作家の林さんも加わって鑑賞しました。

イベントの時間は夕方で、だんだん暗くなっていき、月見台からは南西の空に月を見ることができました。空を横切る飛行機雲もありました。

 

作品の鑑賞を終えたあとは、対岸のスペースでトークタイム。参加者の手には手作りの灯『私の月』。これは、舟メンバーが紙で手作りした小さな行灯。月に見立てて、自分だけの月として楽しんでもらいながら、最後のトークタイムの時間が始まりました。

参加者からは作品や作家の林さんについての質問がたくさんありました。今回のイベントでは、月見台に参加者の人がたくさん乗って楽しみましたが、その光景について作家の林武史さんは、こんなにたくさんの人が乗ったのを見たことがなかったし、一列に座っているのもいいね、と、おっしゃっていました。

林さんには、8月のアトリエ訪問時に、「林さんにとって石とはなんですか?」という質問を舟メンバーから投げかけて、宿題を出させてもらっていました。その答えを聞くと、林さんは「すっかり忘れてた!」とおっしゃいながらも、石に対するさまざまな思いを語ってくださいました。石はすぐには形にならない、割ったり、削ったり、磨いたりある程度の労働が課せられるが、一度やるとはまりますよ、達成感があるということなどをお話いただきました。今後の作品のお話なども聞くことができて、時間はあっという間に過ぎ、気づくと周りは真っ暗で、『私の月』があたたかく光っていました。

イベント終了後、林さんを囲んで振り返りをしました。参加者も、〜ながラーも、そして作家もみんなが楽しめたイベントであったこと、そして、私たちアートコミュニケーターである〜ながラーが、作品と、人をつなぐ役割ができたように感じました。当初、平岡が言い出した、月見台をあまり見ている人がいないので、知ってもらいたいという思いも、今回のイベントで、たくさんの人に体感してもらえて、作家の林さんもよかった、とおっしゃってもらえたことで達成できたように思います。

私たちの舟、月見台丸は、イベントが終わって活動は終わりましたが、またいつか月の見える日、見えない日にも月見台で会えたらいいなと思っています。

執筆:〜ながラー 平岡靖教(1期)、溝口美保(1期)、高木尚子(2期)