2024おしゃべり鑑賞丸
「この舟のろう方式」による活動の記録を、「〜ながラー」の視点からふりかえり、アーカイブとして掲載します。
今回は「2024 おしゃべり鑑賞丸」 の企画の様子をお届けします。
【活動期間】2024年4月~2025年1月
【メンバー】
3期:烏野眞介、中山みどり
4期:伊藤文子、王田夏野、斎藤誠、鈴川敦子、佃雅子、林祐子、山崎有里子
5期:辻貴代、水井滋美、佐橋早苗
私たちは、美術作品を鑑賞しながら感じたことや考えたことを、参加者同士で自由に話し合う「アートでゆる~くおしゃべり♬」を企画・実施するアートコミュニケーターです。参加者の皆様に、作品への理解を深め、新しい視点や感想を発見する機会を提供することを目的として活動しました。
1、舟の始まり〜対話型鑑賞を続けたい
アートコミュニケーター「~ながラー」が発足してから5年。対話型鑑賞を行う舟「おしゃべり鑑賞丸」は、多くの「~ながラー」が乗組員として、入れ替わり立ち代わり試行錯誤しながら継続してきた、歴史ある舟です。
そんな中、2023年3月、2期の「~ながラー」が卒業し、「おしゃべり鑑賞丸」のメンバーが、自分たちだけになったことに気がついた4期の3名。「何とかしなければ!」と焦りを感じ、ミーティングを行いました。
そこでは、「次年度も対話型鑑賞を軸とした活動を継続し、より多くの人々に対話型鑑賞の楽しさやアートの魅力を伝えたい。そして、何よりも自分たちが対話型鑑賞を楽しみたい」という思いが共有されました。
しかし、対話型鑑賞でアートの魅力を伝えるには、ファシリテーターのスキルをもっと磨かなくては・・・。来館者を招いてのイベントを行うには、まだまだ経験不足です。
2. スキルアップ~積み重ねた「練習会」と「学び合い」
鑑賞会では「VTS:Visual Thinking Strategies」という手法をベースとして「ファシリテーター=進行役」が自ら作品を選び、一緒に鑑賞します。
参加された方がご自分の感じたことを言葉にしたり、他の人の話を聞いたり、どなたにも気楽に鑑賞を楽しんでいただく場作りはアートの魅力を伝えるために大切です。それは私たちの楽しみにも直結します。
そこで、まず取り掛かったのは、
ファシリテーションスキルをもっと磨くこと!
ということで月1回程度(合計7回)の練習会を企画に加えました。ファシリテーター役と鑑賞者役、タイムキーパーなど交代し、うまくいったところ、次への課題など忌憚なく意見を出し合いみんなで切磋琢磨しました。
また、個人あるいは有志メンバー同士で、本番で来館者と鑑賞する作品について「作品分析」を行い丁寧に観る力の向上にも力を入れました→(作品分析:詳細に作品を観察し、視覚から得られる情報や感じたことを言語化して整理。どのような見方のバリエーションがあり得るか、作品のテーマなどの検討をすること)
展示替えがある度に美術館全体で実施される「勉強会」に参加したメンバー、個人的に他の教育機関で「対話による鑑賞ファシリテーション」を学んだメンバーもいて、互いに情報共有しながら少しずつ知識やスキルアップを続けてきました。
3.参加者募集のための苦労
私たちは練習を重ね、準備を進めていましたが、「参加者がいなかったらどうしよう…」という不安が常にありました。「たくさんの人に参加してほしい」、「岐阜県美術館で「~ながラー」が対話による鑑賞をしていることを知ってもらいたい」というメンバーの思いはますます強くなっていました。
そこで、「できることは何でもやってみよう」という意気込みのもと、どうすれば興味を持ってもらえるかについて舟のメンバーで意見を出し合い、フライヤーを作成しました。このフライヤーを岐阜県美術館、図書館、名古屋の各施設に配架しました。また、新たな試みとして、対話による鑑賞の様子を撮影し、それをSNS向けに編集した動画を作成して美術館スタッフに発信を依頼しました。
鑑賞会当日は、参加者の関心を引くために、参加受付中にホールで鑑賞会のデモンストレーションを実施しました。同時に館内放送も依頼し、デモのタイミングと重なることで注目を集めるよう工夫しました。その甲斐もあり、デモ鑑賞会を興味深く眺めていた来館者に声をかけたところ、数名に参加してもらうことができました。また、館内入り口付近や展示室前での勧誘も行い、「おしゃべり鑑賞会」に興味を持った来館者の参加につながりました。
特に第1期では、天野裕夫作品《重厚円大蛙》の前で足を止める来館者が多く、そっと声をかけることで参加者を増やすことができました。
「対話による鑑賞」に興味を持ってもらい参加希望者を増やすことは、これからも大きな課題です。しかし、第1期、第2期、第3期と鑑賞会を重ねるごとにブラッシュアップし、少しずつ成果を上げることができたのではないかと思います。
4. 3期に分けてイベントを実施
第1期
所蔵品展
・象る−彫刻コレクションから
・ここではない どこかへ 美術にみる「理想郷」
事前に勉強会やリハーサルを重ねて準備してきましたが、初日は皆緊張気味です。
新たに加わった5期メンバーは全体の雰囲気をつかんでもらうため、サポート役を務めてもらいます。
立体や彫刻など私たちにとって難解な作品や、大きな作品は「どこから観る」かという課題も生まれて作品選びは苦労しました。
7月13日(土) 10:30~11:30,13:30〜14:30 鑑賞会
団体鑑賞で来館中の中学生3人と先生が参加してくださいました。服部しほり《展墓記》の鑑賞では、おしゃべりがどんどんふくらみ「宇宙征服説」まで飛び出し楽しい会になりました。
8月14日(水) 10:30~11:30,13:30〜14:30 鑑賞会
鑑賞中に、一般観覧者さんから熱い視線を感じたので、お誘いすると2作品目から一緒におしゃべりに参加してくださいました。
2日間の実施から、10:30と13:30の開始では当日勧誘する時間が足りないことを実感し、2期からは開始時間を変更することにしました。
第2期
「清流の国ぎふ」文化祭2024
・皇居三の丸尚蔵館特別協力 PARALLEL MODE:山本芳翠 ー多彩なるヴィジュアル・イメージー
・PARALLEL MODE:オディロン・ルドンー光の夢、影の輝きー
「清流の国ぎふ 文化祭」として、大規模な展覧会でのイベントとなりました。来館者は通常よりも多く、膨大な作品をじっくり鑑賞される来館者の方のために、今回は様々な工夫をしました。展示室によっては、通路が狭いため、来館者の方の動線や、鑑賞の際の声の大きさに注意を払うなどしました。
アイスブレイクは「ルドンかるた」と「ルドンを探せ」
美術館のスタッフの方作成のルドンかるた、タブレットの画面の中のルドンを探してもらうゲームで、あらかじめ参加者の方にルドンの世界に親しんでいただきました。
10月26日(土)11:00~12:00、15:00〜16:00 鑑賞会
中学生の団体鑑賞、事前予約・当日勧誘を含めた参加者の方々に楽しんでいただくことができました。芳翠展では、作品の人物の服装から時代背景を想像したり、ルドン展では、「花」の絵がたくさんある展示室で「部屋に飾るにはどれがいい?」と参加者それぞれの「推し」(一番おすすめの作品)を選んでもらう「推し花」トークに盛り上がりました。
11月9日(土)11:00~12:00、15:30〜16:30 鑑賞会
事前予約・当日勧誘を含めた参加者の方々に楽しんでいただくことができました。芳翠展では、鑑賞する位置を変えてみることで違った発見に気づきました。ルドン展では、他の参加者の方とのおしゃべりにより最終的なテーマにたどりつくことができました。
今回の作品展では、参加者の方、他の来館者の方々に心地よく作品を鑑賞していただくにはどうしたらよいかということに配慮し、工夫を重ねました。また、より多くの方に対話型鑑賞を知っていただくためデモの試みも加え、充実した活動となりました。
3期
所蔵品展
・特集:小本章
・イメージとイリュージョン-田口コレクションから
・こいつぁ春から縁起がいいわえ 能・歌舞伎・文楽…絵画にみる舞台芸術の世界
今期は第2期とはがらりと雰囲気が変わり、美術館は普段通りの落ち着いた雰囲気となりました。これまでに作成してきたスクリプト(台本)やタイムテーブルの活用によりスムーズな進行が実現しました。参加者が積極的に対話を楽しむ場を提供できたと感じています。
1月18日(土)11:00~12:00、14:00〜15:00 鑑賞会
未就学児2名と小学生1名、その保護者が参加してくださいました。アイスブレイクで絵本を使用したところ、3人の子どもたちが積極的に意見を述べ、その後の鑑賞会でも子供らしい視点で、多くの発見と意見の交流をすることができました。
1月26日(日)14:00〜15:00 鑑賞会
今年度最後のイベントは、メンバーが大人数揃って実施することができました。事前申込者がいなかったため、デモ鑑賞会を行い声がけをしたところ、2名の高校生が当日参加してくださいました。「〜ながラー」5期の2名を含めて鑑賞会を行いました。様々な意見が飛び交う中で対話を深め、鑑賞をすることができました。
5.まとめ
まずは、3期(全6回)の「アートでゆる~くおしゃべり♬」が無事に実施できたことに感謝いたします。毎回、「おしゃべり鑑賞丸」メンバーは不安がありながらもわくわくに胸をおどらせて、鑑賞会終了後、参加者の感想を聞くまで終始ドキドキしていました。
参加者からは、以下のような感想が寄せられました。
- 「美術館ではひとりで静かに作品を見るものだと思っていたが、みんなと対話しながら鑑賞することで、美術をより身近に感じられた。新鮮でよい経験になった。」
- 「ひとつの作品をじっくり見る機会がなかったので、細かいところまで見ることができてよかった。」
- 「他の参加者の意見を聞くことで、新しい気づきや自分とは違う視点を得ることができた。」
- 「1枚の絵について、様々な意見を聞きながら深掘りするのが楽しかったし、さらに理解が深まる体験ができて満足できた。」
- 「作品をじっくりと観察し、考える機会を持てたことがよかった。」
対話を通してアートを身近に感じたり、新たな発見があったりと、有意義な時間を過ごしていただけたようです。対話型鑑賞にはじめて参加した方が多く、新たな鑑賞方法を発信する良い機会となりました。さらに、参加者のみなさんが対話型鑑賞に興味を持ってくださり、大変うれしく思います。
2024おしゃべり鑑賞丸 活動まとめ
3期にわたり活動したことで、「所蔵品展」だけでなく、「オディロン・ルドン展」や「山本芳翠展」といった大規模な展覧会期間中にも鑑賞会を実施し、さまざまな作品に対応できたことは、とても貴重な経験となりました。
各期ごとに参加者の感想やふりかえりを踏まえ、次期に向けての課題や改善点をメンバーで検討しました。SNS用の動画やスクリプト作成、デモンストレーション実施など、少しずつアップデートしながら、より良い「鑑賞会」へと発展させ、私たちも楽しみながら成長することができました。
今年度の活動は終了しますが、「対話型鑑賞の魅力をより多くの人に伝えたい!」という気持ちは変わっていません。これからも、より多くの方々が気軽に対話型鑑賞を楽しんでくださることを願っています。
参加者のみなさま、美術館スタッフのみなさま、そして練習会やサポートをしてくださった「~ながラー」のみなさま、本当にありがとうございました。
6.活動記録
Ⅰ期-1
活動日時:2024年7月13日(土)10:30-11:30 13:30-14:30
対象展示:所蔵品展(象るー彫刻コレクションから、ここではない どこかへ 美術にみる「理想郷」)
参加者:8名(午前:6名、午後:2名)
鑑賞作品と担当 担当ファシリテーター(以下Ⓕと表記)
午前 A 小清水漸《作業台ーSpoonsー》 Ⓕ王田/服部しほり《展墓記》 Ⓕ伊藤
B 服部しほり《展墓記》Ⓕ山崎/伊藤公象《多軟面体シリーズー白い群生物》 Ⓕ林
午後
服部しほり《展墓記》 Ⓕ山崎/伊藤公象《多軟面体シリーズー白い群生物》 Ⓕ林
Ⅰ期-2
活動日時:2024年8月14日(水)10:30-11:30 13:30-14:30
対象展示:所蔵品展示(象るー彫刻コレクションから、ここではない どこかへ 美術にみる「理想郷」)
参加者:10名(午前:5名、午後:5名)
鑑賞作品と担当
午前 服部しほり《展墓記》 Ⓕ鈴川/小清水漸《作業台ーSpoonsー》 Ⓕ烏野
午後 佐治賢使《ドライブウェイ》 Ⓕ斉藤/服部しほり《展墓記》 Ⓕ佃
Ⅱ期-1
活動日時:2024年10月26日(土)10:00-10:45、11:00-11:50、15:00-15:50
対象展示:PARALLEL MODE:山本芳翠/オディロン・ルドン展
参加者: 14名(午前:①8名②3名、午後:3名)
鑑賞作品と担当
午前①
山本芳翠展《磐梯山破裂之図》Ⓕ伊藤/山本芳翠《十二支 子「少女の書見」》Ⓕ王田
オディロン・ルドン展《神秘的な対話》 Ⓕ鈴川/推し「花」トークⒻ中山
午前②
山本芳翠展《十二支 戌「祇王」》 Ⓕ辻/山本芳翠《唐家屯月下天歩哨図》 Ⓕ山崎
午後 オディロン・ルドン展《神秘的な対話》 Ⓕ佃/オディロン・ルドン《花》 Ⓕ烏野
Ⅱ期-2
活動日時:2024年11月9日(土)11:00-11:50、15:30-16:20
対象展示:PARALLEL MODE:山本芳翠/オディロン・ルドン展
参加者: 11名(午前:9名、午後:2名)
鑑賞作品と担当
午前 A 山本芳翠展《磐梯山破裂之図》Ⓕ伊藤/山本芳翠《十二支 子「少女の書見」》Ⓕ水井
B オディロン・ルドン展《幽霊屋敷》 Ⓕ林/《眼を閉じて》Ⓕ佐橋
午後 A 山本芳翠展《十二支 戌「祇王」》 Ⓕ辻/山本芳翠《唐家屯月下天歩哨図》 Ⓕ山崎
B オディロン・ルドン展《神秘的な対話》 Ⓕ佃/オディロン・ルドン《花》 Ⓕ烏野
Ⅲ期-1
活動日時:2025年1月18日(土)11:00-11:50、14:00-14:50
対象展示:所蔵品展示(特集 小本章、イメージとイリュージョンー田口コレクションから、こいつぁ春から縁起がいいわえ 能・歌舞伎・文楽…絵画にみる舞台芸術の世界)
参加者:6名(午前:5名、午後:1名)
鑑賞作品と担当
午前 小本章・作品群 Ⓕ王田、佐々木尚文/《晩鐘》Ⓕ山崎
午後 ロレンツォ ボネキ《会話》Ⓕ水井/小本章・作品群 Ⓕ林
Ⅲ期-2
活動日時:2025年1月26日(日) 14:00-14:50
対象展示:所蔵品展示(特集 小本章、イメージとイリュージョンー田口コレクションから、こいつぁ春から縁起がいいわえ 能・歌舞伎・文楽…絵画にみる舞台芸術の世界)
参加者:4名
鑑賞作品と担当
ロレンツォ・ボネキ《会話》Ⓕ鈴川/佐々木尚文《晩鐘》Ⓕ佐橋
執筆:「〜ながラー」伊藤、王田、鈴川、佃、林(4期)辻、佐橋(5期)