〜ながラーインタビュー Vol.1

アートコミュニケーター「〜ながラー」の活動が今年(令和2年)の4月からスタートしました。
3ヶ月間の基礎ゼミを経て、いよいよ本格的な活動が始まっています。
このインタビューでは、〜ながラーが実際に取り組んでいることや、感じたことについてお話を聞いていきます。

今回登場するのは、このお二人です。

中嶋健太さん
(なかしま・けんた)
マイブームは登山と工作!おしゃべり好きの岐阜県人。
梨農家を手伝いながら、大学で美術史を勉強中!

所純子さん
(ところ・じゅんこ)
柳ヶ瀬商店街でアトリエショップを不定期営業。
オリジナルのぬいぐるみや雑貨を制作しています。

| まず、〜ながラーになろうと思ったきっかけを教えてください。

中嶋:僕は以前から岐阜県現代陶芸美術館のボランティアをしていて、学芸員さんから募集について教えてもらったんです。アートコミュニケーターについて調べてみたら、「とびらプロジェクト」の本を見つけて…読んでみて、「おもしろそうだな」と思って応募しました。

所:私は、2006年から「こよみのよぶね」の制作ボランティアをはじめました。監修の日比野さんから、東京のアート・コミュニケータの活動について数年前から聞いていたんですね。昨年末、ついに「〜ながラー」の募集が始まったことを知って、ウェブサイトを見たんですけど…何をするのか全然わからない!と(笑)。でもすごく興味があったので、おもしろかったらいいな、と思って応募しました。人と美術館が繋がることで、新しい何かが始まったらいいな、と思ったんです。

| アートコミュニケーターの活動では、《この舟のろう式》といって、3人が集まったら新しい企画づくりが始められるようになっています。それぞれの企画は、舟になぞらえて「○○丸」と呼んでいますね。今、どんな「舟」の活動をしていますか。

中嶋:僕は今、3つの舟のメンバーとして活動しています。
まず1つ目が「美術館のなかみとつながろう」というテーマで、美術館に関わる色々な人たちにインタビューをする企画です。
学芸員、監視員、作家、警備員、清掃員…もちろん〜ながラーも。普通に美術館に来るだけではなかなか会えない人たちですが、そんな人たちのお話を聞いて、発信していきたいと思っています。人の魅力が見えると、美術館がより親しみやすい場所になっていくと思うんです。

2つ目は、対話型鑑賞に関連した企画。オンラインミーティングで対話型鑑賞をやることから始めて、最近では対話の様子を録音して、ラジオのように聞けるメディアにならないか…って実験しています。僕たちが話す音声を、音声ガイドみたいに作品を見ながら聞いてもらえたら、対話型鑑賞になじみがない人にも、気軽に楽しんでもらえるんじゃないかと思って。メンバーは真剣に、録音や発表の方法について話し合っています。

どちらの企画も、作品に加えて人の魅力も伝えたいとか、自分たちなりにできることをやってみたいというメンバーの提案から始まりました。

まさに「この舟、一緒にこぎだしてみようよ!」と誘うようにして、活動が始まっていきましたね。

中嶋:3つ目は、所さんもメンバーですね。

所:そう、2人とも後からたまたま「おもしろそうだから」って入ってきたんだよね。

中嶋:「美術館では、作品が魅力的なのはもちろんだけど、建物にも見所があるよね!」って熱く語っていた人がいて(笑)。建物自体も作品のように、こだわりを持って見られるんじゃないか、と。7人のメンバーが建物のおもしろいと思うところを拾い集めて、それぞれの視点でまとめた、アンソロジーを作る企画です。タイトルは「県美帖」で、最初のコンセプトは「読む美術館」。初めは本を作るつもりだったけれど、今はなかなか美術館に来館できない人もいるから、ウェブサイトでの公開をめざしています。

| 「県美帖」の活動が始まったばかりの頃、美術館が開館した当時の新聞や、建築雑誌を読んで、色々調べたりしていましたよね。それから美術館をすみずみまで歩き回って、床、壁、天井、照明、庭石…と様々な部分を観察しました。

「県美帖」丸の活動の様子。外壁タイルをリサーチ!

中嶋:壁のタイルが美濃焼で有名な東濃で製造されていて、一階と二階部分で形が違うとか。外の縁石が、特別に切り出された恵那石を使用しているとか。天井高が展示室やホールなど、場所ごとに違って、光の入り方にたくさんバリエーションがあるとか…。

所:「ロビーの長さが70mなのは、柳ヶ瀬商店街の本通りと同じ」ってことを確かめに、わざわざみんなで商店街に集合して、アーケードタイルのサイズを計ったりして。私はいつも歩いている道だから「嘘じゃない?」なんて思っていたんだけど(笑)、建築に詳しい人と一緒に計算してみたら、近い数値が出ました!

中嶋:メンバーの個性がとにかく豊かで。一級建築士の人もいるし、すごく面白いまんがを描く女の子もいるし。みんなそれぞれの方法で、建物への気になるポイントを深掘りしていますね。

所:中嶋くんは、私が美術館の航空写真を見たときに、「パズルみたい」って言ったら…

中嶋:模型を作りました! パズルは平面だけど、ブロックみたいにしたら、おもしろいんじゃないかな、という発想です。天井高や間取りにも違いがあるから、上から俯瞰して見ると、新しい発見がある。

中嶋さんが作成した「kenb(i)lock」の一部。美術館の建物を再現。

所:たった数日間で、素材を変えたり、いくつもパターンを作っていたよね。それを実況中継みたいに共有してくれて、その様子がとてもおもしろかったの。熱意と瞬発力!

中嶋:作るのがおもしろくて、止まらなかった(笑)。「こういう大きさなのか」とか「ここへこんでるんだ」とか、発見すると興奮してきて。

所:ブロックの上面が蓋のように開くタイプのものがあって、私から見たら「小物入れじゃん!」って(笑)。他の人も、「もうそれは弁当箱じゃないか」とか…。それで笑いが膨らんだり、他の人の視点がわかったりして。

中嶋:みんな考えていることが違うから、ひとつのものを見ていても、人によって全然違う見方をしていた。それが作った後の反応でわかって、広がりが見出せた。今は〜ながラーだけで楽しんでいるけれど、いつか美術館に来た人とも話題が共有できたら、きっと新しい楽しみ方がふえるんじゃないかな。もっと美術館と人が近づくんじゃないか、って思う。

所:私は、この舟の人たちがちょっと変わってるな、なんて思いつつ、私は私の調子でやればいいんだなって思えました。
〜ながラーには色々な人がいて、そのなかで私も、自分の調子で物をつくったり、案を出したりしていけばいいんだなぁ、と捉えられましたね。

ミーティング風景

舟の活動は、集まったメンバーや目的によって色々なバリエーションがあります。

中嶋:前2つの企画は、ひとつの目的に向かって方法を深めていくオーソドックスなやり方。「県美帖」は一人一人が好きなことに集中して、全く違う成果物を出して、それを本にまとめていく…っていう、予想以上の濃い内容が詰まっている。舟によってやることが全然違うし、それがおもしろい

所:私の乗っている舟は、4人で取り組んでいましたが、「停留中」ですね(笑)。色をテーマに写真を一般公募して、集まった写真でひとつのモザイク作品にしたかったんです。まずメンバーで実験してみましたが、実際に企画するには、いくつか問題があって行き詰まってしまいました。応募してくださった方にモザイク作品をお披露目したとき、どう見えるか、どんなふうに感じるかを体験してもらいたいね、というメンバーの気持ちから始まりましたが…。なので、「ちょっと停めて、別の舟ものぞいてみよう!」ってところです。

中嶋:〜ながラー専用のウェブサイトがあって、各舟の状況とか、近況報告が読めるようになっているよね。

所:夜な夜な読んで、おもしろそうなところをチェックしてます! 感想をコメントしてみたり。

| 仕事じゃないから無理に進めないとか、他の舟に乗り換えるとか、そういうゆるやかな動きができることが大切ですね。今いる30人の〜ながラーが、関心にあわせてくっついたり離れたりしていく。そうしてクリエティブな循環が生まれるのかもしれません。

所:そう、停留中だけど、マイナスの感覚ではなくて、ちょっと休憩というイメージ。また次のきっかけで動けるかも、って思って進めている。「やらなきゃ!」っていうのはなくて、楽しんで参加させてもらっているかなぁ、私は。

基礎ゼミ9の様子。「舟」以外のメンバーとも、たくさんのコミュニケーションをとって〜ながラーの活動をすすめます。

| 〜ながラーの活動が始まってまだ4ヶ月。美術館との関わり方や、アートとコミュニケーションに対するイメージにも、変化があったかもしれません。
美術館と自分のこれから、どんな風に考えていますか。

中嶋:〜ながラーは岐阜県美術館の良きパートナーだったらいいですね。美術館により馴染み深くなるための一つのきっかけであってほしい、僕はそういうつもりで活動しています。僕の周りにいる人にとって、やっぱりちょっと美術館は近づきづらいみたいで…だからこそ、関係をほぐしていきたいというか。長い時間が必要かもしれないけど、〜ながラーがキーマンとなって、岐阜県の美術の歴史を変えるきっかけになったら、と僕は思います。

 

所:私は「自分が楽しいのが大事」って思ってるんです。そうじゃないと、活動も楽しくなくなるし、来館者が楽しくまた来ようって思ってもらえる場にはならないんじゃないかな。〜ながラーになって、美術館のことを普通の来館者とは違う見方で見るようになったと思います。〜ながラーは任期があるから、例えば活動が終わった5年後に来て、「またおもしろいことになってる!」って思えたらいい。自分で美術館の変化を楽しんだり、自信をもって県外のお友達に紹介できるようになれたら

〜ながラーにはさまざまな個性を持った人たちがいて、アートやミュージアムとの関わり方も様々です。専門家だけではなく、多様な背景を持つ人々が美術館に関わることで、社会に接続する場となっていきます。これからも豊かなアイデアを取り入れながら、〜ながラーの活動をすすめていけたらいいですね。
中嶋さん、所さん、今日はありがとうございました。

県美の裏庭を散策する二人。これからどんな「舟」が動きだすのでしょうか?

 

※このインタビューは、令和2年7月31日に行われた「博物館実習」において、〜ながラーと実習生、美術館職員が座談会をした際の記録に、加筆・修正・編集を加えたものです。