開催概要

開催日
2021年11月21日(日)
開催時刻
13:30~15:30(120分)
会場
岐阜県美術館 スタジオ、展示室2
対象展示
「ab-sence/ac-ceptance 不在の観測」
対象作品
平野真美 《変身物語》シリーズ 2021年
荒木高子 《黒いページのある聖書》 1986年
参加人数
19名

岐阜にゆかりある現代美術家の新作を、コレクションと共に紹介する企画展「ab-sence/ac-ceptance 不在の観測」の関連イベントとして、平野真美さん(出品作家)を講師に迎え、アートツアー(鑑賞活動)を行いました。

スタジオでオリエンテーション

内容

○オリエンテーション

まずはスタジオで「不在の観測」展の簡単な紹介をしました。この展覧会では出品作家が当館の所蔵品から「不在」を彷彿とさせるものをピックアップし、自身の新作と共に展示発表をしたのですが、平野さんは荒木高子さんの《黒いページのある聖書》を選ばれました。なぜその作品を選択したのか、また「不在」や「聖書」についての解釈を平野さんから紹介していただきました。

コンセプトを紹介する平野真美さん

「この作品、何にみえる?」 平野真美《変身物語》を鑑賞

「この作品をみて、気付いたことは?」 荒木高子《黒いぺージのある聖書》を鑑賞

メモやスケッチをとりながら、じっくりと鑑賞する参加者のみなさん

展示室で鑑賞

美術館でのマナーを確認した後、展示室へ移動し、作品を目の前に参加者全員で対話による美術鑑賞を行いました。
平野さんの作品では、
「恐竜の骨だと思う!」「いやいや、ペンギンの頭蓋骨じゃないかな。」「レントゲン写真がきれいでお花畑のように見えてきた。」といった意見、
荒木高子さんの作品では、
「聖書が燃えてしまったのかな。」「ページの端が金色に輝いている!」「金色の本だから、とっても大切なものなんじゃないかな。」といった意見が挙がり、ユニークで鋭い視点から鑑賞していただいていることが伝わってきました。

「ここにいない“不在の誰か”ための聖書」をつくる

実は、鑑賞の際に気になったことをメモやスケッチにしてもらうため、みなさんにちいさな紙を配布していました。展示室からスタジオへ帰った後、さらにこの用紙を追加し、記憶の中に眠っていた出来事や、想像を膨らませて考えた物語などを繋ぎ合わせ、「ここにいない“不在の誰か”」に想いを馳せながら10枚の紙を和綴じ本に仕上げていただきました。展示室で作品を間近に鑑賞した直後のためか、みなさんの想像力がより一層活性化されているようでした。

いろいろな種類の紙から、気に入ったものを選ぶ

ここにいない“不在の誰か”を イメージしてメモやスケッチを追加

サポーターさんと一緒に和綴じ本へと仕上げ

和綴じ本の表紙は平野さんが コーヒー染めなどを施したお手製のもの

想い想いの「聖書」できあがり!

参加者の声(アンケートから抜粋)

・他の人の意見を聞けた。自分の本がつくれた。
・自分だけの本がつくれて、うれしかった。
・子どもを連れて鑑賞することが少なかったので、とてもよい機会になった。ワークショップと鑑賞があり、楽しめた。作家さんも一緒だったのが、とても魅力的だった。
・子どもがいろいろしゃべるのを一生懸命にきいてもらえて、とてもよかった。自由な発想だった。
・おもしろかった。
・作家さんと垣根なく交流できるところ。作品に対する考え方などを押し付けられなかったところ。
・ご本人の話を聞きながら、アートワークに参加できて、楽しめました。
・作品を見て感じたこと、考えたことをカタチにするという体験が初めてで、深く考えさせられたし、カタチとして表現することの難しさに苦戦し、楽しむことができた。
・展示会場、その場で意見を言い合ったりした経験がなかったので、新鮮でおもしろかったです。また、観察したあと、文字で書き起こすことはあってもドローイングや冊子にすることはなく、とても楽しかったです。
・最後に本(=聖書)を綴じられたのが楽しかった。
・作家の平野さんと一緒に展示室で作品を鑑賞することができてよかった。
・平野さんの作品は、亡くなった愛犬の遺骨をモチーフにしているそうですが、レントゲン写真の映像作品をみていると、赤ちゃんがお母さんのおなかにいる時のエコー写真のようにみえてきて、生と死の繰り返しや、始まりと終わりに境界がないことを感じました。

スタッフの振り返り

コロナ禍の状況にありながら、ご家族連れやカップル、おひとりさまなど様々にご参加いただきました。年齢層も未就学児から小学生、20~60歳代の大人までと幅広く、講師の平野さんとも相談しながら鑑賞を深めながらも難しくなりすぎないことを目指して企画しました。さらに、あえてグループ活動の時間を設けないことで、参加者全員が気軽に相互に自由に、対話や交流ができるような雰囲気づくりを心掛けました。これは、今回のような社会教育施設であるミュージアムでの教育普及活動においても、社会的包摂(ソーシャル・インクルージョン)の観点を少しでも取り入れたいと考えたからです。今回、持ち主 “不在” の聖書をつくる活動がありましたが、“不在の誰か” に想いを馳せることそのものが、社会的包摂の土壌としてあるのではないでしょうか。
アートの前では誰でも平等な「一人の人間」になる、ならざるを得ない。今回のアートツアーを通して、多様な人と共に鑑賞を深める意義はそこにあると改めて感じました。