GIDSはGifu Indie Design Sessions(岐阜自律デザイン会)の略で、本巣市根尾地域、樽見駅から徒歩数分の場所に拠点がある。倉敷市出身で同組織を主宰する中原淳が2013年に妻の故郷に移住、活用されていなかった旧ふれあい交流センターを仲間とともにリノベーションした。既設の和室やキッチンにシャワー設備などを加えて宿泊と制作を可能としてアーティスト・イン・レジデンス事業を開始、海外からもクリエーターを招聘する。作家選定や運営のために、元根尾村の村長や芸術活動をする地域の人たち、元地域おこし協力隊によって、キュレーション委員会を組織した。
第1期のレジデンスに招聘された角田哲也は、建築家でCG制作者であり、応募の少ない水鳥団地の無償分譲地にタイニーハウス(少ない設備の小さな住宅)による小規模な都市開発デザインを提案した。第2期には、花火師の増元直人が「根尾観光の再デザイン」として根尾地域盆踊り大会の出店でジビエの楽しめるbarを出店した。第3期の韓国のデザイナー、ギン・イギョンは、「ねお弁当」を開発、パッケージのデザインを行い、また幸せの形について地域の人たちにインタビューをして本にまとめた。第4期、ソマテック心理学指導者でパフォーマーの小林三悠は、根尾で踊りたい場所を探してパフォーマンスを行い、その映像をデジタル上の地図にはりつけ、土地に新たな意味を与えた。2019年第5期、大石暁規はシンプルにデザインされた多くのキャラクターを、樽見駅や根尾地区役場など様々な場所のガラスに描いた。そして既に第6期として民族楽器を含む打楽器奏者の蔵本孔介によるプロジェクトが始動している。
こうした作品制作を支える施設の特徴として、エントランスには「コワーキングスペース」が設けられている。国内でその先駆的な役割を果たす「みどり荘」(東京)は、根尾移住前の中原の仕事場であった。現在、新しい仕事のあり方として提唱されるコワーキングは、専門職従事者や起業家、フリーランスで働く人たちが、会社に属さなくても各設備を共用することでコストを削減して、自由で独立した働き方を可能にしながら各々の専門性を組み合わせて新たな仕事を創造するコミュニティを形成している。
中原は京都大学農学部卒業し情報科学芸術大学院大学(IAMAS)修了した後、東京にあるNTTインターコミュニケーション・センター(ICC)研究員としてキュレーションを行なう。その後アイティア株式会社の共同創業者になってNTT光iフレームのプロトタイプを開発し、また様々なアプリを世に送り出した。しかし東日本大震災をきっかけに退社、みどり荘で新たな仕事のあり方を模索しながら2013年に自らが代表を務める「グレイセル株式会社」を創業して、スマートフォン用アプリの開発など各企業からの依頼に応えながら、根尾に拠点を移しても仕事ができるように環境を整えた。さらに不動産屋の撤退していた根尾で「山ねこ不動産」を開業し、空き家バンクを行うことで地域への移住・交流促進に貢献する。
現在GIDSでは「自伐型林業」に注目している。担い手の減少する森林組合や林業専門業者に山の管理を委託するのでなく、小人数で活動し、移住者でも少ないコストで運営可能な林業の形態である。これによって、中山間地域のアーティスト・イン・レジデンスで求められる木材を確保するだけでなく、新しい林業の担い手たちと地域産業に刺激を与えようとしている。
http://gids.jp