「株式会社 ⾶騨の森でクマは踊る」(通称「ヒダクマ」)は、JR⾶騨古川駅から徒歩5分程度の旧熊崎邸を拠点としている。そこでは国内外からやってくる利⽤者の要望に合わせて、様々な種類の⽊材の調達や加⼯にかかわり、利⽤者と⾶騨の職⼈や各業者とをつなぐ、ものづくり⽀援を⾏っている。そのために必要とされる現地滞在で、⼀般利⽤者に向けた⽊⼯体験であれば⼀泊、デザイナー、建築家、様々なクリエイターに向けた要望があれば⼀定期間の宿泊を引き受けており、⼤学や研究室、他教育機関から建築事務所など各種企業の合宿先にもなっている。過去にアーティスト・イン・レジデンスとして、国内だけでなくカナダ、イギリス、フランス、イスラエルなど世界各国からアーティストを受け入れており、団体の合宿としては、イギリス、ノルウェー、アメリカ、カナダ、台湾、⾹港など世界中の⼤学、研究機関を受け入れ、岐⾩県内でも情報科学芸術⼤学院⼤学(IAMAS)や⾶騨⾼⼭⾼等学校などが活⽤している。
始まりは2014年、森林のプロデュース事業を展開する「株式会社トビムシ」に、⾶騨市から、地域資源による商品開発の業務の依頼があった。そこにトビムシからの提案で「株式会社ロフトワーク」が加わり、3者が共同で法⼈を創設、官⺠共同事業として2015年にヒダクマが誕⽣した。ロフトワークは、世界中のクリエイターコミュニティと共創することで、幅広いクリエイティブサービスを提供している。ヒダクマという社名は「熊が喜んで踊り出すくらい豊かな森」にするイメージからつけられ、⼈が森林を活⽤しながらも⾃然と健やかな関係を築いていこうと、⾶騨の⽣態系から⽣まれた産業・⽂化の維持、発展に⼒を入れている。戦後⽇本の林業で普及した、杉など特定の樹種による⼤量供給に向いた針葉樹林とは異なり、⾶騨の山々は様々な樹種の広葉樹で覆われている。ヒダクマは森の特徴を⽣かし、⾶騨地域の林業・⽊材業の⼈たちと密に関わり、時期や⽬的に併せた樹種を提案することで、様々なプロダクトの商品化を可能にした。それは「森林・⽊材事業」と「地域交流事業」を同時に行うことになる。海外からの規格化された⼤量の⽊材の輸⼊とは異なる、地域の森と産業を守りながら持続可能な事業展開を⽬指しつつ、建築家・デザイナー・アーティストと消費者をつなぐ役割を果たしている。
ヒダクマが活動拠点として取得した旧熊崎邸は、時代に合わせて、造り酒屋、⽊製品⼯場、塩専売などが営まれてきた、昔ながらの⾶騨の町並みに溶け込んだ威厳ある建物である。蔵のある邸宅をヒダクマが取得してリノベーションを施し、2016年にFabCafe Hidaをオープンした。FabCafeは、「ものづくり」を意味する「Fabrication」と「愉快な、すばらしい」という意味の「Fabulous」を合わせた「Fab」の精神を掲げており、⼈が⾃由に集うことの出来る「Cafe」の空間に、レーザーカッターや3Dプリンターなどのデジタル機器を含むものづくりのための機械・⼯具を揃えた施設になっている。FabCafeは2012年にロフトワークが渋⾕にFabCafe Tokyoをオープンし、現在では世界7カ国10 拠点に展開している。
このようにヒダクマは、⺠と官の連携した特性を⽣かしながら、滞在・交流施設の機能を持つことで、地域と世界をつなぐ、ものづくりネットワークの拠点となっている。