「美濃・紙の芸術村」は、1997年文化庁による「文化まちづくり推進事業」に選ばれたのがきっかけで、「紙の芸術『生活文化に根ざした紙を素材としたあらゆる芸術活動』」という部門としてアーティストを招聘する事業を始めた。美濃市は1300年の歴史を持つ美濃和紙の産地であり、江戸時代には美濃判として障子の規格にもなっており、その土地にしかない伝統工芸と海外交流事業とが結び付いた。1997年は文化庁の地域振興課(当時)が諸外国に倣って「アーティスト・イン・レジデンス事業」を開始した年であった。このころから国の文化政策の影響が強まると国内での担い手も主に自治体が多く担っていた。そのため宿泊施設は公的な滞在施設を準備するか自治体が部屋を週や月単位で借りるケースが多かった。それに対して「美濃・紙の芸術村」では市民ボランティアが事業の運営に大きく関与した。約3か月間市内に滞在するアーティストたちはボランティア宅にホームステイして、ホストファミリーとの間の交流を深めた。毎年4人から多いときは7人の国内外のアーティストが招聘され、18年間で34か国93人が参加している。
アーティストたちはその滞在期間に、新規の作品制作だけでなく、近隣の小・中学校を訪問して講師となったり、ワークショップなどを開催したりして地域交流をした。さらに工房を公開して、自作のプレゼンテーションを行うことで、近隣住民だけでなく観光客にもアピールする存在となった。美濃市市街地は歴史的な街並みの残る観光地であり、江戸初期の町割りの残る、重要伝統的建造物群保存地区に指定されている。昔ながらの瓦屋根の風景から、延焼を食い止める防火壁が家の繁栄を象徴する装飾となった「うだつの上がる町並み」を観光資源としている。その町並みを会場にした「美濃和紙あかりアート展」が今日に至るまで毎年開催されており、当時滞在制作をするアーティストたちの中には、そこに別途作品を出品して観光資源として一端を担った。市の公共施設である美濃和紙の里会館などで紙すき体験をして素材作りから伝統を学ぶとともに、同展示施設で完成した作品を披露してレジデンスを終えることとなる。
「美濃・紙の芸術村」は、2003年に独立行政法人国際交流基金主催の地域交流振興賞(現・国際交流基金地球市民賞)を受賞した。2014年度で事業が終了し、2016年4月から「Mino Art Info ~みの あーと いんふぉ」と名称を改め、「NPO法人四つ葉のコウゾ」が事務局となって、定期的に吉田工房(旧今井家住宅隣)で、滞在制作をきっかけに寄贈された作品を展示している。アーティストたちと事務局あるいは美濃のホストファミリーたちとは今でも交流が続いている。近年の例としては、日本ポーランド国交樹立100周年を記念した事業で、日本美術技術博物館Manggha館で2019年2月に「和紙の不思議」展が開催され、そこにかつて滞在制作に参加した3人のポーランドのアーティストたちが新作を披露した。新作の素材として美濃和紙の提供がされたようである。同年9月、美濃にアーティストたちが帰ってきて旧交を温めるとともに、市内の展示スペースに作品を飾ってアーティストトークやワークショップなどを開催、12月から美濃和紙の里会館に会場を移して作品が展示された。
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