〜ながラーインタビュー vol.6
人と人、人と作品、人と場所をつなぐ活動に取り組むアートコミュニケーター「〜ながラー」。2020年度からスタートし、現在では約50名が活動しています。
初年度の終盤に行った「実践ゼミ2〜4 舟のおもしろい公開日誌をつくろう」では、〜ながラー同士でインタビューを行い、その内容を書き起こすことで「ふりかえる・伝える」を実践してみました。
コロナ禍によるオンラインミーティングでの活動や、「この舟のろう式」によるオリジナルな企画のあゆみ、世代や職業が異なる人たちとのコミュニケーションなど、さまざまな体験談が綴られています。
~ながラー一人ひとりの個性的なエピソード、ぜひご覧ください。
インタビューの公開にあたり、実践ゼミの講師である多田智美さん、妹尾実津季さん(株式会社MUESUM)に監修していただきました。
~ながラーは波のように| ひろろ さん
聞き手・文:宮原紀子
「あの時、解散をしなくて、本当に良かった」と、はにかみながら語るのは、ながラーで『音×アート丸』『放送部丸』で活動をしている、ひろろさんこと鈴木宏明さん。
コロナ禍、対面での活動ができない中で始まったながラーの基礎ゼミ。Zoomを使用してオンラインのコミュニケーションのみの関係から『音×アート丸』は出港した。職場でも使ったことのないオンラインツールで、初めて出会った人たちと対話を進めることは、ひろろさんにとって、とても衝撃的な出来事だった。
幼少期から音に敏感で音楽に興味があったひろろさん。人を動かす原動力となる音楽のチカラに深い興味を覚えながらも、それをアートと結びつけるにはどうしたら良いのか……5・6月、乗組員3名で話し合いを重ねるが方向が定まらず途方に暮れていた。他の舟が、活発に掲示板へ書き込みを進める中、もう解散でもいいかなぁという話も出ていた。
7月、日比野館長への活動プレゼンを実施にて「とても面白い企画だよ。諦めず方法を探してみて」とのアドバイスをもらい、力を得て11月の「アートしながラー」へ向けて漕ぎ進めることになった。
その頃、他の舟でも上陸や乗り換えなど様々な動きがあったが、音×アート丸では、ようやく〜ながラー全員に「身近な音集め」を呼びかけ、オンライン上で岐阜県近郊の音集めが動き出した。この集められた音を聞きながら、作品鑑賞を行うのだ。
舟の乗組員も増え、美術館の1番奥で鎮座している《大きな枢機卿》を鑑賞の対象作品にすることも決まる。呼びかけに応えてくれた仲間たちからは100を超える身近な音が集まった。何度も試作をして鑑賞に値する音の検討を繰り返し、各地から寄せられた音の中から12の音を選び抜いた。音量や長さ質感、様々なこだわりをもって編集を進めるひろろさん。チームのメンバーから頼りにされる存在だ。
作品を音と合わせて鑑賞する……美術館ではあまり見られない試み。試行錯誤しながら鑑賞実験を重ねると、音とアートのかけあわせによって様々な感じ方が生まれ出すことが分かった。いろいろな地域の音を聴くことで、コロナ禍、旅にも行けない状況下でも、岐阜県や近郊の場所に行ったかのような音の風景も浮かび上がる、素敵な効果があった。音をコネクター(*1)として人と場所と作品とが一体化し、新たな感じ方が生まれ出す面白さに乗員一同が夢中になった。鑑賞した人が感じた気持ちを残してゆく掲示板や好きな音の投稿フォームも作り、お互いを知らなくても、感じ方を交流できる仕組みも作り出した。いくつもの反応があり、自分たちのやってきたことに手応えを感じた。
出航からアートしながラーまで「まるで波のようだった」と振り返るひろろさん。大きく揺れ動きながら、漕ぎすすめて到着した場所には、乗員の熱意と賛同者の協力、鑑賞者の反応……あたたかな風景が広がっていた。1つの大きな島にやってきた「音✖️アート丸」Second movementを宣言し、ひろろさんは船員たちと共に、更なる新天地を目指し漕ぎ出している。
(*1 作品と鑑賞者をつなぐ「もの」のこと。美術館の鑑賞プログラム《Such Such Such》で登場する考え方。)
〜ながラーのたのしみ方| 白木容子さん
聞き手・文:馬渕明美
岐阜県美術館のサポーターを長く続けていらした白木さんは、自らを「セシル」と名乗るほどフランスが大好きな笑顔のチャーミングな女性です。サポーター活動を通して、いろいろな企画やアイデアをもっと実現できるところはないか!と考えていたところ、〜ながラーの活動を知り、参加を決めたとのこと。
活動にあたり、彼女が心がけたこと。それは、「いつも自分でやってしまいがちなので、みんなで作業する気持ちを大切にしたい」ということ。「おかげさまで、素敵な仲間に恵まれ、さまざまな企画に携わることができました」と白木さんは語る。
11月には石に彩色をして野外での小川を利用した<県美の森を彩るPJ>を企画。「参加者に石に魚を描いた作品を制作してもらって、美術館の庭の小川に飾るという企画で、いつもとは異なる美術館の楽しみ方を味わってもらえました」と語る彼女の活動は、それだけにとどまらない。
2021年2月のロートレック展では、「妄想アート」丸とのコラボレーションでロートレックの作品に登場する物や人と写真撮影ができるパネルの制作にも携わった。「ロートレックの作品に登場する人物の気持ちになって、物語や衣装を制作して、劇風に仕上げ、多目的ホールで演じることにも挑戦しました。この企画は、来館者の方々にも大変喜んでもらえて、ムーランルージュの世界を多くの人に堪能してもらえて嬉しかったですね」と白木さん。
また、3月には検温タブレットのデコレーションも仲間と手掛けた。「短い制作期間でしたが、ZOOMでのミーティングや模型づくりを通して、ロータリークラブのみなさんとも交流ができました」と嬉しそうに語ってくれた。
最後に、これからどのように活動していきたいか聞いてみた。「まだ美術館に来たことのない方にも、もっと気軽にお越しいただけるようにしたいですね」という白木さんの言葉に、心から美術館での活動を楽しむ白木さんならではのお答えだなと感じた。
「こよみのよぶね」の屋台骨 | 所純子 さん
聞き手・文:藤村範子
普段、映画館と自分のお店の仕事を両立させているする所さん。彼女は「こよみのよぶね」での「心がときめく」経験をきっかけに~ながラーになったという。
「こよみのよぶね」とは、冬至の日に、干支を象った巨大な行灯を長良川に浮かべるイベント。所さんは活動に十数年前から携わっており、もはやライフワークとなっている。 コロナ禍の今年3.11も釜石に出向き、「とうほくこよみのよぶね」を成功に導いた。若いスタッフに想いが伝わりつつあると手ごたえを感じているようだ。 「今年は館長が東北へ出向くことができなかったので、東北の方々ががっかりすると思って、【ミニ日比野館長】を連れて行ったんですよ~ 」と笑いながら、お手製の【ミニ日比野館長】をカバンから取り出し、見せてくれた。それは赤ちゃんがニギニギするような、細長い小さなぬいぐるみの人形だった。思わずぎゅっと握りしめたくなる。非常事態宣言中だった東京から釜石へ出向けない日比野館長、日比野館長の到着を楽しみに待つ東北スタッフ、「こよみのよぶね」の現場を知り尽くし、手先が器用な所さんだからこそできる、温かな気遣いだ。
「~ながラーの活動は、『こよみ』ほどできていなくて、正直ライフワークとまではいってないんです。来期は続けるか悩んでる……」という所さん。活動を中途半端にしたくないからこそ悩んでいるのではないだろうか。 来期もユーモアに溢れ、手先の器用な所さんの存在は必要だ。 そして、今後はぜひ〜ながラーの活動でも「こよみのよぶね」で感じた「心がときめく経験」を語ってもらいたい。
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