【基礎ゼミ】特別編<ミュージアムの特性を活かした活動>
【基礎ゼミ】特別編〈ミュージアムの特性を活かした活動〉
実施日:2022年8月6日(土)10:30~15:00
会場:岐阜県美術館 アートコミュニケーターズルーム
講師:伊藤達矢さん(東京藝術大学 社会連携センター特任教授)
ミュージアムが再定義される今、アートコミュニケーターとして美術館をどのように社会とつなげるのでしょうか?アートコミュニケーターの社会的役割や社会的処方、また〜ながラーの中心的な活動である〈舟〉の活動の企画や進め方についても講師がアドバイスします。
この舟のろう方式
今回は基礎ゼミの特別編として、東京藝術大学 社会連携センター特任教授である、伊藤達矢さんを講師にお迎えしました。
伊藤さんの講義では、これまでに開催された全6回の基礎ゼミの内容をふりかえりながら、これからの活動の核となる「この舟のろう方式」を通した美術館での活動について、さらに意識を高めることのできるお話をしていただきました。
「居合わせた人がすべて方式」
みなさんが実現したいと思う活動を進める中で、資源や人材を集めることが大変な環境にいることもあります。
居合わせた人でできることをやると、自分たちのやりたいことを実現できる環境がつくりやすくなります。
ワークのお題『まちと美術館をつなげる取り組みを考える』
3人1組で席に座り、「考えてみる」ためのワークを早速始めます。
このワークの中で「共有の段階→拡散の段階→混沌の段階→収束の段階」の4つの過程を経ていきます。
今回のテーマは「まちと美術館をつなげる取り組みを考える」です。内容はイベントでもワークショップでも勉強会でも構いません。
好きなこと/得意なこと/すべきこと
「好きなこと」は青色、「得意なこと」は黄色、「すべきこと」赤色、といったように色分けしながら、人としゃべらずに、一人で考えたものを付せんに書き出していきます。
自分のことを考え、自分自身と向き合う時間です。
共有
一人で考えた後は、チームで自分の書いた内容を見せ合いながら、付せんを色ごとに、また内容の近いものごとに分類し組み合わせて、プログラムのアイデアをつくっていきます。
チーム内で内容を互いに共有していき、これはどういうことか?と話を進めていくと、自分が書いたことと、他の人が書いたことが混ざり、アイデアが共有されていきます。
並べているときに思いついたことは追加で書いていきます。
拡散・混沌
次に共有された3色の付せんを組み合わせてできる、まちと美術館をつなげる取り組みを考えていきます。この前に共有の段階を経ているので、机の上に並んでいるものはチームの意見です。書いた相手に遠慮せず企画のアイデアに反映していきます。
また、同時に使わない付せんを意識して選んでいきます。使わないアイデアを決めることで、やりたいことの輪郭をさらに明確にすることができます。
模造紙の上に残った付せんがどのように組み合わさり、どんなストーリーが進んでいるかを図や文字を書き足しながら、可視化していきます。
3人の中からホスト役を一人決めます。ホスト役以外の人は他の席に移動し、ホストの人は移動してきた他のグループの人にプレゼンをしていきます。
ホスト役の人から企画のプレゼンを受けた人は、その企画がワンランク上のものになるように全力でアドバイスをしていきます。アドバイスから出た意見はオレンジの付せんに書いて残していきます。
自分たちが内容を詰めていくときに悩んでいる場合、第三者からの意見が出ることで、アイデアがより具体性を増していきます。企画の精度を上げる推進力になり、また混沌としていた内容が収束に向かっていきます。
収束
チームのメンバーで再度集まります。他のチームの人がオレンジの付せんに残してくれたアドバイスにどんな内容があったかをメンバーに共有していきます。意見を共有することでまた自分たちの企画に深みが増していきます。
話を共有したら、A3の紙に内容を日程や時間、内容などを具体的に書き込んだポスター制作を進めていきます。
ポスターができたら、また一人ホスト役になり、自分たちの企画をプレゼンしていきます。ホスト役以外の人は他チームの企画のプレゼンを聞いて回ります。
それぞれから企画のプレゼンを受けたうえで、一人二票持ち、良い!と感じたプログラムに投票していきました。投票の一番多かったチームが本日のベストプログラムに決まりました。
計3時間程度の時間で6つの魅力的なワークショップや企画が生まれていきました。
伊藤さんの活動『「共生社会」をつくるアートコミュニケーション共創拠点』
伊藤さんは現在、孤独や孤立に関する問題に取り組まれているそうです。社会的な問題でもあるそれらを、アートを軸にして、地域や企業がつながりを生んでいき、多様な人がつながりをもつことのできる拠点づくりができるのだと、このプロジェクトに対する思いをお話いただきました。
「この舟のろう方式」は化学変化の起こりやすい場所です。今回のワークを通してたまたま集まった3人組から生まれたアイデアでしたが、また人が変わればアイデアは無限に生まれ、つながりも増えていきます。これからの企画作りでも意識していきたい。そんなゼミになりました。
〜ながラーのふりかえり
・美術館をハブに、新しいつながりが生まれていく場所になり、そういう場所にしていくのがアートコミュニケーターなのかなと、改めて思わせてもらいました。
・それぞれの持つ、得意・好き・大切をグルグル掻き回してみると、1人では生まれ得なかったようなものが出来上がるのだと感じるワークショップでした。
・他のグループにお邪魔して、どこが気になる?ここをどうにかしたいという悩みに、最初は同じように悩んでしまいそうになりましたが、聞いていて素直に分からなかったことを相手に聞いてみることで、自分なりの「こうしたらどうかな?」を出せたように思います。お相手の方も、自分の小さな意見を受け止めてくださって、とても話しやすい環境だったなと感じています。
・最後にお話しいただいたJSTでの“共生社会をつくるアートコミュニケーション共創拠点”のプロジェクトについてゼミ後別途拝見しました。人が各種IT技術とアートを介して共生社会を実現するという素晴らしい構想ですね。私は、以前からテレイグジスタンスやアバター等の身体拡張について興味があり、まさにこんな舟があれば飛び乗りたい感じです。
・伊藤先生の取り組まれている孤独・孤立解消のプロジェクト、素敵です。以前のゼミで、血縁も地縁もなくなっていく中、美術館を中心にした「文化縁」で人の繋がりを作っていこうというようなお話があったのを思い出しました。
コロナや高齢化社会で今までは普通にあった人と人との繋がりがどんどん断ち切られていく中、アートを介したこういった動きがもっと広がっていったらいいなーと本当に思いました。
スタッフノート
基礎ゼミ特別編では、「居合わせた人が全て方式」によって、それぞれが力を発揮できる、企画づくりワークショップを体験しました。
伊藤先生の『「共生社会」をつくるアートコミュニケーション共創拠点』についてのお話では、新しいつながりが生まれることで、様々な形で救われる人も増えていくのだろうなと感じました。アートコミュニケーターとして社会とどう関わっていくか、スタッフも考え続けていきたいと思いました。
基礎ゼミ全6回+特別編を経た皆さんが、これからの舟の活動、実践ゼミなど様々な活動にもこれまで身につけた経験によって、つながりをいたるところに広げていってほしいです。