【2019/8/17(土)】「ナンヤローネフォーラム あたらしい場をつくろう」

開催概要

日時 2019年8月17日(土)15:00~16:45(14:30開場)
会場 岐阜県図書館研修室(2F) 岐阜市宇佐4-2-1
定員 先着80名(当日受付、事前申込不要)
参加費 入場無料

告知チラシ

開催レポート

2019年8月19日(土)、岐阜県図書館2階の研修室にて「ナンヤローネフォーラム あたらしい場をつくろう―岐阜におけるアートコミュニケーターの可能性」を開催しました。
当日は定員の80名を超える、多くの方にご来場いただきました!

 

  

会場である岐阜県図書館の2階から見える景色は、まさに工事中の美術館!
夏空の下、リニューアル工事が進む美術館を見ながら、「あたらしい場をつくろう」のテーマで様々な話題が展開されました。

 

初めに、岐阜県美術館の酒向隆副館長よりごあいさつ。リニューアル後の美術館について紹介しました。「展示室をはじめとして、ロビーやエントランスなど、館内の様々なところが新しくなる岐阜県美術館。たくさんの人が集まり、語り合える『あたらしい場』へと生まれ変わります。」

このフォーラムをキックオフとして、新しくはじまるのが「アートコミュニケーター」の事業。美術館を拠点とした新しいソーシャル・デザインのかたちとして、全国から注目を集めています。

まず、ゲストである東京藝術大学美術学部特任准教授の伊藤達矢先生より「東京都美術館×東京藝術大学 とびらプロジェクト」の事例についてご紹介いただきました。
「とびらプロジェクトとは、東京都美術館と東京藝術大学が連携して行う、アートを介してコミュニティを育む事業です。とびらプロジェクトでは、美術館のスタッフや大学教員などの専門家、そして一般から公募されたアート・コミュニケータ(愛称:とびラー)が、フラットな対話によって集い、様々なアート・コミュニティの形成に取り組んでいます。」

100名を超える「とびラー」には、さまざまな年齢・性別の人がいて、それぞれの生き方や価値観は非常に多種多様。アートへの関心もまちまちで、「美術がすごく好き!」という人もいれば、「はじめて美術館に来ました…」なんて人もいるそうです。とびらプロジェクトのコンセプトムービーで、実際の活動の様子が活き活きと紹介されました。

ムービーに登場する東京都美術館の稲庭彩和子学芸員は、次のように語ります。「これからの美術館を考えていくときに、美術の専門家だけでなく、多様な価値観をもって生活する人々が関わり合いながら、新しいアイデアを実現していくことが大切。このとき、サポーターではなく、『プレイヤー』として活動していくのがアート・コミュニケータの存在です。」

伊藤先生は、「アート・コミュニケータの役割は、人々が安心して話せる環境をつくること」であると言います。そのために大切なのが、「よく見ること よく聞くこと よく語ること」。美術館とは、作品を見ること、語ることを通して、人々が自分の感性や思考を発揮し、能動的に社会に参加していく重要な場所。「『美術館を活用した対話のある社会の実現』がアート・コミュニケーション事業の要である」伊藤先生は語りました。様々な違いを認め合い、あらゆる人々を包摂する社会を築くソーシャル・デザインの視点が、このプロジェクトには組み込まれています。

アート・コミュニケータの発足は、東京、札幌につづいて、岐阜は3例目。他にも日本の各地で発足に向けて準備がすすむなど、地域や文化に合わせてそれぞれの活動が始まっていくそうです。

 

次に、鳥羽都子学芸員から「岐阜県美術館で始まるアートコミュニケーターについて」紹介しました。
岐阜県美術館は開館して以来、4200点にも及ぶコレクションを活用した展覧会の開催や、岐阜の様々な地域にアートを届ける活動を展開してきました。

「この秋のリニューアルオープンを機に、美術館の基本理念も『美とふれあい、美と会話し、美を楽しむ』に一新します。これまでのテーマ『美とふれあい、美と対話する』を改め、『対話』を『会話』に、そして『美を楽しむ』を加えました。新しく加わった『美を楽しむ』を体現していくのが、アートコミュニケーターの活動であり、また美術館全体でめざす姿でもあります。」

これからの活動イメージについては、川下りになぞらえて紹介しました。
水が山から湧き出て、田畑や町をうるおし、新たな収穫や動力となっていくように、アートコミュニケーターの活動が美術館から社会のなかへひろがっていきます。

美術館は作品を鑑賞する場であるとともに、地域性や独自性を発信したり、人々の交流を通してアートを体感する場所でもあります。なかでも、岐阜県美術館で大切にしているのは「ナンヤローネ?」という問いかけの言葉。ナンヤローネプロジェクトや、アートまるケットアーティスト・イン・ミュージアムなど、美術館をとび出す活動に、これからはアートコミュニケーターも加わっていきます。岐阜にある様々な地域、文化をつないだり、新たな思いや関係を結ぶ存在として、多様な展開の可能性がありそうだと鳥羽学芸員からメッセージが伝えられました。

中盤は、「ナンヤローネカード」を使ったワークで進行していきます 。カードには、自分の気になったキーワードをメモ。このカードには4つの絵柄があり、同じ柄の人を見つけて3人組を作ります。

  

今日初めて会う人、元々知り合いだった人、遠方から来た人など…。様々な人と出会い、お互いの感想や疑問について話しあうことで、参加者のみなさん同士も「アートコミュニケーター」について考えを深めていきます。

新しい出会いがあったところで、いよいよ今日の本題がスタート。
伊藤先生と日比野克彦館長、鳥羽学芸員が対談形式で、「岐阜におけるアートコミュニケーターの可能性」について語ります。社会における美術館の役割が変わっていくなかで、岐阜での活動はどのように展開されていくのでしょうか。

「東京にないものが、地域にある。地域じゃないと、できないことがある。」

日比野館長はトークの冒頭で、都市と地域における社会環境の変化と、それに伴う人々の価値観の変化について指摘します。交通アクセスやインターネットの発展によって、地域の暮らしに新たな価値や意味が見つけられるようになった現代。「社会にいる人々の価値観が変われば、美術館の役割も変わってくる。岐阜じゃないとできないアートコミュニケーターがきっとある。」この土地ならではの種を自分たちで発見して、育てて、さらに他の人に届けていければ・・・、と、これからの期待を語りました。

地域での活動について、「地域に集まってくる人には、愛がある」と語ったのは伊藤先生。

伊藤先生は、日本の各地でアート・コミュニケータについて紹介するなかで、現場の自治体職員や学芸員から「(美術館でプロジェクトをやっても)だれも集まらないんじゃないのか…」「関心を持つ人なんているのだろうか…」といった不安を聞くことも多いそうです。

けれども、アートとコミュニケーションを美術館が担っていくということは「美術館を介して、この地域をもっとちゃんと愛そうよ」という呼びかけである、と伊藤先生は語ります。

作品を大切にすることや、交流や活動の拠点であることを通して、美術館が「みんながのれる舟」になるということ。だからこそ、様々な年齢や職業の人、美術への関心度合いに関わらず、開かれた場所であることが大切だと感じているそうです。

 

ここで、岐阜の地域性を活かした活動を始めるにあたって、日比野館長がアートコミュニケーターの愛称を発表しました!


岐阜県美術館アートコミュニケーターの愛称は、「~ながラー」。
会話しながら、考えながら、など、「〜しながら」を語源としています。清流の国、岐阜を象徴する長良川と掛け合わせた言葉です。

「主婦をしながら、会社づとめをしながら、自分の生活をしながら…」。多種多様な人がアートに関わってほしい、という願いが込められた愛称です。「一人ひとりの日常を誇りに思いつつ、アートコミュニケーターをやってみる、そんな生き方を大事にしてほしい」と日比野館長は語ります。

続けて、「すでにその人の中にあるものをもってきてもらう」のが重要であると伊藤さん。たとえば、「いつもはこういう仕事を専門にしている」とか、「普段はあまり言わないけれど、本当はこれが大好き!」だとか。そして「その中には、できないこともあってもいい」と続きます。「とびラー」のなかでは、聴覚障害や発達障害、引きこもりなどの個性を持つ人も活動しているのだそうです。「自分にはできないことがあっても、みんなと一緒にやってみたら、違うヒントがもたらされて、その人にとってできないことではなくなっていくかもしれない。そんな場所を〜ながラーがつくっていってくれたら、と思います。」

 

また、伊藤先生のムービーのなかで登場した「新しいアイデアとは、すでにあるものの組み合わせである」という西村佳哲さんの言葉をひきながら、日比野館長は「普段とは違う関係のなかに身をおくこと」の面白さについて話します。

「自分にとっての普通が、他者から見たら普通じゃないってこともある。ひょっとしたら、自分で知らない自分らしさがあるかもしれない。〜ながラーになって、普段とはまったく違う関係の人と出会うことで、まずは知らない自分の発見があるかも。」

「『美を楽しむ』で、まずは自分が楽しくならないと」と日比野館長は続けます。どんな時に、どんな作品が気になって、「楽しい」と思うのか。それは、他者とどう違うのか? それをお互いに聞きあったり、語り合ったりする、リニューアル後は美術館でのあちこちでそんな姿が見られるようになるかもしれません。

今回のリニューアルでは、アートコミュニケーターの拠点となるルームや、キッズコーナーを新設します。さまざまな来館者との自然な交流が生まれる空間へと、美術館は変化していきます。

後半のテーマは「アートコミュニケーターって、ナンヤローネ?」
会場に参加しているみなさんとのオープンセッションです。

まずは先ほどつくった3人組で、気になったキーワードについて話し合うところから始めます。

   

言葉を交わしているうちに自然と空気がほぐれ、次第に会場のあちこちから笑い声が聞こえてくるようになりました。そしてその一方で、首をかしげたり、頭をひねっている様子も。それぞれの経験や関心から、今日の疑問や、気づいたことについて話し合います。

話題に上がったことや質問については、伊藤さん、日比野館長、鳥羽学芸員と、会場にいる皆さんとでマイクを回してお話していきます。

    

感想を話し合いながら作品を見ることと、美術館のマナーって、どんな関係?

新しい人との出逢い、新しい自分との出逢いには、ちょっと不安もあるかも?

自分の仕事と生活って、〜ながラーの活動にどう活かせる?どう楽しめる?

…などなど、 様々なお話が繰り広げられました。

セッションのなかで、伊藤さんと日比野館長は美術館で育まれるコミュニティの姿についても語ります。

伊藤さんが説くのは、「弱いつながり」のあるコミュニティを増やす大切さ。

「社会の中で大事な繋がり方は大きく二つある。ひとつはボンディング(bonding)といって、家族、親族のような強いつながり。もう一つはウィークタイズ(weak ties)といって、弱いつながりのことです。生活していくうえで強い結束は必要であるけれど、それがしがらみのようになってしまう時もある。それとは別の関係として、いろいろな人とちょっとだけ会えるとか、この場所でだけ会えるとか、そんな出会いの幅がひろがると、生活が豊かになる。自分と違うところを結び付けられる、そういう関係性が美術館でできてくるといい。」

さらに、アートは現代社会に生きる多様な個性の人々を包括する、と日比野館長。

「弱みをみせないようにがんばろう、と思いがちだけれど、弱いところをちゃんと受け入れてくれるコミュニティであっていい。自分の弱いところも共有できて、人とは違うことが個性になっていく。一人ひとりの個性を大事にして、多様性の社会をみたてられるのがアートの特性でもある。」

最後に日比野館長から、これからの活動にむけた期待の言葉で会を締めくくりました。

「ここから始まることがたくさんあると思います。岐阜の古い町、駅前の新しい通り、いろいろな地域のみなさんと、美術館を核にして、アートコミュニケーターが展開していければいいなと思っています。」

人と作品、人と人、人と場所をつなぐアートコミュニケーター「〜ながラー」。その存在や役割、美術館がめざす姿について、ビジョンを共有するキックオフイベントとなりました。

当日のアンケートより、参加者の皆さんからはこんな感想をお寄せいただきました。

「~ながラーのネーミングとても良いです。ゆるく無理なく楽しく参加できるのではと期待しています」

「どうなるかわからない感がおもしろい」

「岐阜県美術館を中心に、コミュニケーションのあり方が変化していくと面白いなと思いました」

「美術館を好きになりたいです!」

 

岐阜という地域と、変わっていく社会、人々の暮らし。

これからの岐阜県美術館って、どんな場所になるんやろーね?

アートのあるコミュニティを育む場所として、リニューアルしていく岐阜県美術館をどうぞお楽しみに!

 

*当日の映像・配布資料はこちら!