2022年度 実践ゼミ「地域資源と〜ながラー」

多様な背景をもつ来館者に美術館を楽しんでもらうために、
私たちはどのようなマインド(気持ち・意識・姿勢)で美術館に存在すべきか。

 

基礎ゼミで得た学びをより深めるべく、実践ゼミ「地域資源と~ながラー」では、岐阜市を中心に展開されるアートプロジェクト「こよみのよぶね」を通して、岐阜県美術館のアートコミュニケーター「〜ながラー」が「地域資源」について実践を交えながら想いを巡らせました。

担当:中嶋健太(当館普及業務専門職)

1 きいてみる

■開催日:2022年9月19日(月・祝) ※オンライン開催

前半は「地域資源」や「こよみのよぶね」について日比野館長のビデオメッセージを聴き、後半は「こよみのよぶね」の流れについて、実際に運営に携わる制作リーダーの方々に解説いただきました。

 

【日比野館長からのメッセージ】

究極の「地域」とは何か?
地球→アジア→東アジア→日本→東海地方
→岐阜県→岐阜市→宇佐→岐阜県美術館と、
どんどん辿って、どこに行き着くかというと、
“人”だと思います。

ひとりひとり、という地域。

地域らしさを発信しているのは“人”。
地域らしさを考えているのも“人”。

ひとりひとりが、どのような生活をして、
感性をもって、他者と会話している、
といったことが蓄積していくと、
“地域らしさ”というものになっていく。

地域資源とは、ずばり“人”
と言っても良いと思います。

2 つくってみる(行灯デザイン編)

■開催日:2022年9月24日(土) ※オンライン開催、10月1日(土)

初回のゼミ後、各自干支行灯づくりのアイデアやスケッチを考える期間を経て、交流の場を設けました。

グループ内交流を通して「話をきくこと」や「全力でアドバイスする」といった、基礎ゼミでの学びを意識したグループワークを展開しました。またグループワークを経て自身のアイデアやデザインを再考し、再度グループ交流しました。

一連のブラッシュアップの流れにより、複数人でアイデアを練る醍醐味をオンライン・対面で体験した〜ながラーは、アイデアにこめた想いをプレゼン後、投票を経て3案に絞りました。

3 つくってみる(行灯・活動拠点づくり編)

■開催日:2022年10月15日(土)、22日(土)
     11月3日(木・祝)、5日(土)、6日(日)、12日(土)、13日(日)、19日(土)、20日(日)、27日(日)
     12月3日(土)、4日(日)、8日(木)、10日(土)、11日(日)、20日(火)、21日(水)

3つのアイデアを踏まえ作成したスケッチ3案から日比野館長に1案選定いただきました!

決定したデザイン案

デザイン決定後は、干支行灯のマケット(小型模型)制作や活動拠点となる休憩スペース(美術館北玄関傍)の活用方法について、チームに分かれて検討しました。検討を重ねることで、実制作前に〜ながラー自身でモノ(物:干支行灯や「こよみっけ!!」)・コト(事:来館者との共同作業)・トコ(所:制作拠点・来館者との交流の場)をつくりだすマインド(気持ち・意識)を高めていきます。

11/3(木・祝)より干支行灯の骨組みづくり開始。〜ながラー同士で試行錯誤しながらカタチを作っていきます。
骨組みづくりと並行し、活動拠点の場づくりも進めていきます。

骨組みがある程度仕上がったら、電球を仕込みいよいよ和紙貼りに取りかかります。
活動拠点では、月々の思い出を短冊にかく「こよみっけ!!」に取り組む人もちらほら。
〜ながラーは、来館者とコミュニケーションをとりながら行灯づくりと場づくりに取り組みます。

12/3(土)〜4(日)のGIFUワークショップギャザリング Vol.8では、場所を変えて和紙貼り・「こよみっけ!!」づくりを来館者と取り組みました。

〜ながラーのアイデアから生まれた「カウントダウンボード」や、干支行灯の分身「コトラ」も大活躍。アートを介して人と人をつなぐコミュニケーションの橋渡し役になりました。

干支行灯制作もいよいよ終盤!岩部分の着彩と撥水剤塗布を進めます。

完成した干支行灯[命名:翠虎(すいこ)]に日比野館長が目入れをしました!
目入れ後、翠虎は〜ながラーに見送られつつ長良川に旅立ちました。

干支行灯「翠虎」完成!

「こよみっけ!!」もたくさん集まりました

4 体感してみる(冬至の日編)

■開催日:2022年12月22日(木)

岐阜長良川を舞台に17年続くアートプロジェクト「こよみのよぶね」には、どのような人たちが関わっているか。現場で何が起こっているか。渦中に飛び込むことで何が見えるか...。体感を通してアートを介したコミュニケーションに思いを巡らせる機会になることを願いつつ、冬至の日、〜ながラー有志は設営準備に参加しました。

お昼の全体ミーティングでは、〜ながラーも運営の一助となる役割をいただきました。「こよみのよぶね」のクライマックスである「こよみっけ!!渡し」の巫女付き人役から、毎年恒例の付き人衣装作り担当、そして長良川右岸プロムナード誘導担当などなど。数字行灯制作チームの方々や実行委員会の方々と交流しつつ、役割を担いました。

干支行灯「翠虎」、長良川で点灯!

コトラも長良川に来ました

5 体感してみる(左義長編)

■開催日:2023年1月14日(土)

冬至の日、長良川を彩った行灯たちはその日のうちに解体され、翌年長良天神神社で行われる左義長神事にて火にくべられゼロに戻ります。
日比野館長の声かけ後、トーチとなった干支行灯「翠虎」や「こよみっけ!!」、そしてコトラも火にくべられました。

火を囲みつつ〜ながラーたちは、冬至の日に知り合った人々と言葉を交わしたり、日比野館長が焼いてくれたスルメを味わったり、古いお札やお守りが入った箱を運ぶ氏子さんたちのお手伝いをしたりと、「こよみのよぶね」の一連の流れが生みだす様々な人との関わりやつながりを体感しました。

6 ふりかえってみる

■開催日:2023年1月28日(土)

アートプロジェクト「こよみのよぶね」を通して地域資源について考える〜ながラー実践ゼミの最終回。はじめにアイスブレイクとして今年最初の「こよみっけ!!」づくりをしました。各々の1月の出来事をふりかえり、交流することで場が温まりました。

アイスブレイク後は、グループに分かれて実践ゼミのふりかえりをしました。初回の日比野館長の声かけから美術館での干支行灯づくり、冬至の日を経て左義長でのひとときに想いを巡らせつつ、今後より良い活動にするためのアイデアについても交流しました。

〜ながラーの声

・行灯づくりを通して来館者と交流できて良かった。来館者と関わる機会を増やしたい。

・妥協しない~ながラーが力を合わせてつくった干支行灯だということを実感した。

・いつ来ても、経験値に関係なく気軽に関われる場があると良い。自分は行灯づくりに関わる機会が少なかったが、皆さんに温かく迎えてもらえてとても嬉しかった。

・数字行灯制作チームとの交流がもっとできると良い。制作段階から交流できるとより楽しめると思う。

・左義長後「こよみのよぶね」の活動を報告する場があると、「こよみっけ!!」づくりに関わった人たちにとってもより良いと思う。

・人が集まることで「地域資源が“人”」であることを実感した。

・左義長で行灯たちはゼロに戻るけど、人との関係性がゼロになるわけではない。「こよみのよぶね」によってもたらされたつながりを大切にしていきたい。

スタッフノート

日比野館長の「地域資源は“人”」という言葉を受け、人それぞれの多様さや魅力を知ることから始まった〜ながラーによる干支行灯づくり。今回の「こよみのよぶね」は、〜ながラーにとって行灯づくりに留まらない、“人”が織りなす関わりやつながりについて思いを巡らせるひとときになりました。

 

自分という“地域”をかたちづくる
「語るほどでもない日常」こそが地域の特性。

自分の“地域”って何だろう?
他の人の“地域”って何だろう?

ひとりひとりの感性や価値観が
個性豊かな“地域”をかたちづくり、
それらが多様な資源となる。

 

この経験が、〜ながラーにとって今後のアートコミュニケーション活動の一助になれば幸いです。

写真展示:「よみのよぶね」2006ー2021

写真展示:〜ながラーと干支行灯づくり2022