「流し」のおしゃべり鑑賞フレンド丸
「この舟のろう方式」による活動の記録を、「〜ながラー」の視点からふりかえり、アーカイブとして掲載します。
今回は「『流し』のおしゃべり鑑賞フレンド丸」企画の様子をお届けします。
【活動期間】2023年7月~12月
【メンバー】
2期:市川めぐみ
4期:岩井純子、佃雅子、山崎有里子
1、舟のはじまり・・・共感を呼んだ「流し」の合言葉
2023年7月、基礎ゼミ最終回のグループワークで出た話題がすべての始まりでした。
「美術館にひとりで行くけれど、作品を観て感じたことをちょっとだけ誰かに聞いてほしい、気に入った作品の前で今の気持ちを話したい、と思うことってあるんだよね。展示室の中に、気軽に話し掛けていい人がいたらいいのに、といつも思ってたから、フラ~っと館内を歩いて、ご要望に応じてお話をお聴きする活動がしたい。イメージとしては、昔、ギター片手に『流し』の歌手がその場でリクエストに応じて一曲いかが?とか、道で乗りたいときに『流し』のタクシーを、手を挙げて拾うみたいな」
この話に大笑いしながらも共感したメンバーにより、『流しのファシリテーター丸(仮称)』が発足しました。
舟の名前については、「来館者に寄り添って、お話をお聴きする、友達(フレンド)のように」ということと、「あくまで館内をふら~っと『流し』て歩く、動きのある活動」にこだわって、「流し」のおしゃべり鑑賞フレンド丸、に改名し、どんな活動かより明確にしました。
2、最初のミーティングから企画書完成までの道のり
活動初年度の4期にとっては初めての企画書作成。右も左も全くわからなかったのですが、1期、2期の先輩たちが遺してくれた活動の記録やアーカイブを調べたり、参考にしたりして試行錯誤しながら書き始めました。企画書は下書き段階からアートコミュニケータ運営スタッフに相談し、書き方や表現についてアドバイスをいただきながら完成させ、何とか12月に実施できることになりました。
3、リハーサルとこだわりのゼッケン創作活動
私たちの舟は予約無しで、ご来館いただいた方と会話をするため、準備物は少なかったのですが、唯一「ゼッケン」はこだわって制作しました。
来館者の方が、展示室で不意に私達に声を掛けるのも気後れするのではないか、という心配から、「一緒に作品についてお話しませんか?」というゼッケンをつけて安心してお声がけいただけるように活動内容がわかるアイテムを作りました。その際、「自分たちが描きたい内容」であることと、「来館者にとって見やすくなっているか」という「視認性」とどうバランスをとるか、が課題になりました。試作を着けて実際にどう見えるか確認も行い、チェック完了。作業当日は、絵を描くことが上手なメンバーや、展示室入口の案内ポスター作りを担当した方、ゼッケンの紐や留め具、シールなどささやかに個性的な演出をしてくれたメンバーも、みんな楽しく作業しました。
また、同日に運営スタッフ立ち合いの元、リハーサルを実施。展示室内での立ち位置や「流し」のローテーションの順番と確認、また、他の舟の「~ながラー」に来館者役として協力していただき話し掛けてもらって、本番当日を想定したロールプレイも少し実施できました。
4、いよいよ本番。「流し」のおしゃべり鑑賞フレンドの活動実践!
1日目
活動日時:2023年12月10日(日)11:00~12:00、13:30~14:30
対象展示:所蔵品展示「さかのぼり岐阜洋画史 大正・明治編」「ルドンコレクションから:黒との会話」「林武史《石間》安藤コレクションから」「フォルムーやきものから」
鑑賞フレンド対応実績:14名(午前:8名、午後:6名)
当日は開始前にミーティングにて最終確認。声の大きさや、鑑賞の妨げにならないようによく観察することを意識しつつスタートしました。
- 午前の部
・11時から展示室1a~dにて各立ち位置から『流し』活動開始。リハーサル通りの動きで20分毎に問題なくローテーションできました。展示室1への来館者もコンスタントに数人ずつのペースで入室があり、あっという間に感じた1時間でした。12時に午前の部終了。スタジオに戻り、午前の振り返りを30分程度で行いました。
- 午後の部
午後は話しかけない方がよさそうだと判断した方が多かったので、対応人数も少なめでしたが、フラッグ横でのご案内が奏功して、「声かけOK」の方に鑑賞サポートすることもできました。
ふりかえり
活動終了後は、ふりかえりを実施しました。各自感じたこと、何に気を付けたか、どんな来館者とどのような会話をしたか、気づいたことや次回24日に向けての課題、または工夫点などの共有を行いました。
「テレビでルドンを見たのがきっかけで来館したことなどお話をお聞かせいただきました。」
「印象に残ったのは父親と小学生の娘さん親子とおしゃべり出来たこと。特に娘さんが「やきもの」の展示室に興味を持って、キャプションの作者の名前をしっかりみて同じ作者の作品があることに気づいたこと。ご本人の好きな作品はもちろん、「これ、お父さんが好きそうな作品」などと楽しそうに話され、親子で鑑賞する場面に一緒に寄り添えたことが、ほほえましくとても楽しかったです。最後の天野裕夫《重厚円大蛙》の作品では館外の天野裕夫《バオバブ・ライオン》をご案内、外でぜひ触ってみてね、とご案内できたのも嬉しかったです。」
「最初の担当が入り口案内フラッグ横で、声がけ、ご案内、イベント説明など集客の働きかけをしていました。またナンヤローネステーションへのチケット購入や館内のご案内係としての役割、心がけも実践出来て良かったです。展示室内ではやはり最初は声がけできず、まずは良く観察することにしました。≪石間≫を見て「わからん!」とおっしゃったお客さまの気持ちに寄り添うことができたと思います。」
「山本芳翠の作品の並びで立ち止まり、こちらを見て目が合ったので、「いかがですか」と声がけ、お話が始まりました。チラシに載っていた山本芳翠《若い娘の肖像》を見に来たけれど、その並びの山本芳翠《琉球令正婦人肖像》が綺麗、美しいなあ、とおっしゃり、「目が潤んでいて、憂いを感じるところがいい」「着物の柄の金色や赤が琉球を感じさせる」とのお話。一旦離れましたが、北蓮蔵《午の憩》の前でもう一度振り返ってアイコンタクトを頂いたので、再度一緒に鑑賞。関西から度々用事で近くまで来るけど、初めて入館してみてよかったとのことです。」
次回の活動に向けて
「無理に話しかけないけど、待つだけではなく、「フレンド」らしく、そっと寄り添い安心してお話ができるよう、負担感無く可能な範囲で工夫していきましょう。」
2日目
活動日時:2023年12月24日(日)10:30~11:30
対象展示:所蔵品展示「さかのぼり岐阜洋画史 大正・明治編」「ルドンコレクションから:黒との会話」「林武史《石間》安藤コレクションから」「フォルムーやきものから」
鑑賞フレンド対応実績:14名(午前:8名、午後:6名)
10時集合、10:30~11:30の1時間、展示室1a~dにて実施。
前回10日の最後のローテーションの続きの立ち位置からスタート。
本日は午前1時間のみの実施なので、15分毎に交代、全員展示室内で活動できました。
本日の館内環境:来館者の数自体は少なかったですが、先週から企画展「走泥社再考 前衛陶芸が生まれた時代」が始まっていたので、少ないながらも断続的には入館者がありました。
ふりかえり
メンバーの対応や会話の内容など概要は次の通りです。
「展示室入口横での勧誘の際に「お声がけOK」との方についてはおおむね全員フレンドと会話し一緒に鑑賞。話や様子から、「友の会」会員の方も複数いらっしゃったようで、常設展は前期後期の展示替えも含めて度々ご来館いただいているとのお話でした。
その中のお一人の男性は、ルドンコレクション内、ラトゥールの《大画帳(真理から)》の《パルジファルと花の娘たち》の前では、隣り合う2作品を「女の人に囲まれてモテモテの人が、一人を選んで結婚してよかったってことを描いとるんやろ」と、作品からイメージして創ったストーリーを楽しそうに話されたのがよかったです。」
「同じ方ですが、お声は大きめで、少し配慮をお願いしつつお聴きしました。この時は展示室に他の来館者もいなかったため、事なきを得ましたが不安も残りました。また、キャプション(作品名や作者名の表記)が小さい字のため、「特にフリガナがいつも全く読めなくてね・・・もっと大きくできんかね。年寄には見えん」とのご意見も、お気持ちに寄り添って拝聴しました。」
「リピーターの方で、山本芳翠の女性像の3作品の並びを観て、「綺麗」「憂いてる」と感想をお聴きできました。」
「《石間》では、女性がこちらに近づいてきたように見えたので、お声がけのきっかけになりました。「どろどろした温泉が湧いているイメージ」とのご感想を伺えました。また、大理石についての質問が複数あり、「どこの大理石かな?」「贅沢なお部屋やねぇ~」など、思ったこと感じたことを率直に口に出していただけたようで良かったです。」
5、終わりに
実際に舟の活動を最初から最後まで経験してみて、スケジュール管理や、なかなかミーティングの時間が取れないなど大変な時もありましたが、やっぱり来館者の方との会話は本当に楽しかったですし、ニーズがあることも知りました。今回お話をお聴かせいただいた来館者の方も、楽しそうに話をしてくださったり、喜んでくださったりしたことが大変嬉しかったです。私達も美術館だからこそできる、作品を通したコミュニケーションの形にも多様性と可能性があることを学びました。
執筆:「〜ながラー」佃雅子(4期)