《石間》と《立つ人-月見台》五感を使って鑑賞しよう〈Ishi丸〉

「この舟のろう方式」による活動の記録を、「〜ながラー」の視点からふりかえり、アーカイブとして掲載します。
今回は<Ishi丸>が実施した企画「《石間》と《立つ人-月見台》五感を使って鑑賞しよう」の様子をお届けします。

【活動期間】2023年7月~11月

【メンバー】
2期:高木尚子、塚本幸恵
3期:中山みどり
4期:王田夏野、山本孝子、鈴川敦子

1.舟の始まりとイベントの目的

2022年11月27日、庭園作品《立つ人ー月見台》《月に吠える》の作家、林武史さんを招いて、〜ながラーの舟の活動としてトークイベントを行いました。(2022年に〈月見台丸〉が実施したイベント。活動の様子はこちら)
その時、参加した〜ながラーはみんな林武史さんの魅力と作者の人柄にグッときました。その後、主要メンバーの1期は卒業しましたが、残った2期・3期のメンバーは秋に《石間》が展示されると知った時、《立つ人ー月見台》と《石間》を多くの人に楽しんでもらいたいと思いました。

そして、新しく4期(2023年4月からのメンバー)も加わり、以下のようなイベント開催のための案を出し合い考えました。各自アイデアが膨らみワクワクした時間を過ごしました。

①《石間》でお茶会 「《石間》でちゃしませんか」
《石間》がお茶室を基にしている作品なので、お茶室の空間を楽しむ。
《石間》は展示室に展示されると知り、鑑賞後に白川紅茶(林武史さん出身地にちなんで)を振る舞いながら、鑑賞会をする。その後《立つ人ー月見台》《月に吠える》を紹介する。

②月香浴
アロマの香りを楽しみながら月明かりの夜の庭園散歩、《立つ人ー月見台》《月に吠える》を鑑賞する。

③ナイトミュージアム
月明かりの中で《立つ人ー月見台》《月に吠える》を楽しみ、展示室の《石間》と比べて鑑賞する(夜間開館日にイベントができたら、月と作品を同時に楽しめる)。
その後、企画書を提出し、運営スタッフからのアドバイスを聞きながら軌道修正を重ねて「《石間》と《立つ人ー月見台》五感を使って鑑賞しよう」という形で舟のイベントを行うことになりました。 

2.イベントの準備から当日のイベントの様子

「岐阜〜ふるさとを学ぶ日」である11月3日(文化の日)は無料開放日で、たくさんの方が来館されることから、イベント開催の告知と、参加者募集のために私たちの活動をアピールするコーナーをアートコミュニケーターズルーム(以下「ACルーム」)に作成しました。

コーナー内には、舟のメンバーの一人である塚本さんが作成した詩を展示しました。きっかけは、Ishi丸イベントの企画も大詰めのある朝のこと。「二つの作品を前に、参加者と舟のメンバーが感じたことを自由に表現することを楽しむ、そういう特別な時間を共有できたらいいな」「自然や身体を感じること、誰かと同じ時を過ごすこと、きっとそれがこの企画の醍醐味だ」と思っていたときに浮かんできたとのこと。
昨年のイベント以来、何度も《立つ人-月見台》に乗ったり、通りがかりに覗いたり、幾度となく向き合っているうちに、塚本さんにとっては友人のような、愛着のある存在になっていたからかもしれません。
塚本さんの詩には、林武史さんの作品に対する私たち舟の想いがつまっています。

 

 

 

 

 

11月12日のイベント当日は、少し薄曇りのお天気でしたが、募集定員人数の8名が集まりました。昨年度まで「〜ながラー」として活動していた湊カラーも参加してくれました。
ACルームに集まったあと、展示室にある《石間》を2つのグループに分かれ、鑑賞しました。普段《石間》は、触ることはできないのですが、この日は、手袋をして触れたり、上に乗ることもでき、作品を体を使って感じました。

その感覚を記憶に留めながら、次は屋外の庭園にある《立つ人ー月見台》へ。この作品は普段から座ったり乗ったりすることができますが、先ほど《石間》で感じたことと比較しながら、みんなで話をしながら楽しみました。

最後に、同じく庭園にある林武史さんの作品、《月に吠える》も鑑賞しながら、館内に戻り、最後はACルームにて、鑑賞ノートに記入しながら、今日作品で感じたことをみんなでふりかえりました。

3.イベントを知って、楽しんでもらうためのアイテム

(イラスト、デザイン担当:塚本)

このイベントでは、ただ見るだけではなく、鑑賞の手助けとなり、より楽しんでもらえるようなアイテムをいくつか用意しました。「石」をイメージしたイラストやデザインに工夫を凝らし、また、当日のイベントだけでなく、イベント後も林武史さんの作品をより楽しんでもらうための情報も用意しました。

・ポスター(イベント告知)・・・イラストに、《石間》《立つ人ー月見台》を水彩で描きました。二つの絵を縦に並べることで「対比」を意識しました。当日の参加者の名札のデザインにも使用しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・鑑賞ノート(モノクロページ)・・・参加者が作品を感じる余地を最大限残すようなデザインにしました。作成には時間をかけました。イベント当日のふりかえりの時間は、塗り絵や書き込みを楽しみながら感想を述べ合う、とても良い時間になりました。

 

 

 

 

 

 

 

・鑑賞ノート(作品マップ)・・・林武史さんの作品が県内各地にあることを知ってもらい、参加者に足を運んでもらいたいという思いから作品マップを作成しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆鑑賞ノートは、Ishi丸メンバーの想いが集結した一つの『作品』になりました。

・五感カード・・・屋外の《立つ人ー月見台》での鑑賞時に使用しました。目、耳、手、足、鼻、のイラストを順に見せて時間を区切ることで、一つ一つの感覚に集中してもらうようにしました。

五感カードを使う様子

4.イベント参加者が鑑賞で感じたこと

鑑賞中に、参加者同士で話をしながら感じたことは以下のようなことがありました。

〇《石間》に 触る・乗る 体験より
パズルのように組み合わさっている上部表面に触れると、思ったより柔らかく感じるが、下の土台部分はごつごつしている。しっとりしていて、油分を含んだクリームのよう。乗ってみると、カタカタと空洞を感じる音がして緊張感がある。

〇五感による2作品の比較
・《石間》ではお茶室の静けさを感じたのに対し、《立つ人-月見台》は城壁のようで、ごつごつと荒々しく、たくましさを感じる。

・《石間》に乗ったときのカタカタという人工的な音の響きに対し、《立つ人-月見台》は鳥の鳴き声や自然な生活音が聞こえてきて、日常の延長だと感じる。

・《石間》は堆積岩でできているため水の香りをイメージしたが、《立つ人-月見台》は火山岩のようで、硫黄の匂いを感じた。

イベント当日は岐阜基地航空祭が行われており、庭園での《立つ人-月見台》の鑑賞中に、上空をブルーインパルスが横切って行きました。その轟音に全員がどよめき、スペシャルな鑑賞になったとの感想もありました。

また、鑑賞後のふりかえりの場面では、各グループで相槌を打ちながら歓談しました。《石間》はこれから成長していくことを感じ、《立つ人-月見台》は朽ちていくことを感じるとの感想に、参加者の皆さんが納得している様子でした。

 

5.イベントふりかえりと、Ishi丸から次の活動へ

・様々な好条件が重なり当初計画していた以上の舟の活動を終えることができました。五感を通して鑑賞した《石間》と《立つ人ー月見台》二つの作品を対比することにより、全く違う印象を参加者さん達と共有することができました。

・《石間》に実際に触れて乗る体験ができたことが大きな要因だったと思います。参加者のみなさんが触れた時の反応や感想はIshi丸メンバーの私たちにとって大変嬉しく、これまでの何度も重ねてきたミーティング等の道のりを思い出し報われたひと時でした。《立つ人ー月見台》でも偶然ブルーインパルスが私たちの頭上を横切り、五感で味わう中でサプライズの感覚をもたらしてくれました。鑑賞後にグループで話しながら鑑賞ノートに絵などを描き込めたことも好評でした。

・反省点としては参加者のみなさんが受付をした後、計画していたよりも時間を持て余してしまったので、その時間を利用して十分にアイスブレイク等をすれば良かった点でした。これは次回の参考にしたいです。今回の活動を通して、舟のメンバーで時間に余裕を持って計画を立てること、何度もミーティングを重ねリハーサルを繰り返すことが成功するために必要なことだと実感しました。

・今後に向けて五感、対比というキーワードで体感する鑑賞会はわかりやすく誰でも気軽に参加できるので、また来年度も新しい舟として活動できたら楽しいと思います。今回の林武史さんの作品は、館内と庭園の2箇所で展示していたことで舟の活動としての目的を明確に設定することができました。特に庭園の作品は季節や時間を変えて行っても感じ方が違うものになり、その時々の楽しみ方がたくさんあると思います。一度だけの鑑賞会ではもったいなく、数回できたら良かったと思いました。

執筆:「〜ながラー」高木尚子(2期)、塚本幸恵(2期)、中山みどり(3期)、王田夏野(4期)、鈴川敦子(4期)