【基礎ゼミ】第5回<きく力>

【基礎ゼミ】第5回

実施日:2022年6月11日(土)10:30~15:00
講師:西村佳哲さん(働き方研究家)
website:https://www.livingworld.net
著書:『自分の仕事をつくる』(2003 晶文社、2009 ちくま文庫)、『自分をいかして生きる』(2009 ちくま文庫)、『自分の仕事を考える3日間』(2009 弘文堂)、『みんな、どんなふうに働いて生きてゆくの?』(2010 弘文堂)、『かかわり方のまなび方』(2010 筑摩書房、2014 ちくま文庫)、『いま、地方で生きるということ』(2011 ミシマ社、2019 ちくま文庫)、『わたしのはたらき』(2011 弘文堂)、『なんのための仕事?』(2012 河出書房新社)、『ひとの居場所をつくる』(2013 筑摩書房、2020 ちくま文庫)、『一緒に冒険をする』 (2018 弘文堂)

コミュニケーションの基本は、話している相手に、本当に関心を持って「きく」ことから始まります。お互いの思いや力を出し合って、プロセスを共有する方法について学びます。

きく力

今回の基礎ゼミはアートコミュニケーターズルームに集まりスタートです。
西村さんからご挨拶があり、早速あまり喋ったことのない人同士でペアをつくります。簡単な挨拶をし、軽く雑談をしていきます。
挨拶を終えると西村さんから指示が入り、そのペアをすぐさま解散します。先ほどのペアと異なるメンバーで3人組をつくります。
今回の西村さんの講義では新しくチームをつくり解散、また他の人とチームを組み、解散…といったプロセスが繰り返されます。

スパゲッティ・キャンティレバー

3人組で「スパゲッティ・キャンティレバー」というワークを進めていきます。キャンティとは、「一端の固定支持のみで片方支持のないもの」を指します。机の天板からスパゲッティを伸ばしていき、地面につかないようにしていかに長く伸ばせるかを、3人で相談しながら作り上げていくというものです。

グループに配布されたものは
・ディ・チェコのパスタ100グラム
・木綿糸1巻き
・ドラフティングテープ(紙製のテープ)
の3つだけです。

固定して良いのは机の天板のみで、天井から吊ったり、机の足などを使うことはできない…といった様々な制限があります。
制限時間は30分。3人で力を合わせてどうやったら長く距離を伸ばせるかを考えていきます。

力を合わせる

パスタを使って構造物を作る…というのは言葉にするとシンプルですが、ほとんど全員が今までやったことがないことです。

パスタが想像していたより扱いにくく、どのチームにも問題が発生しました。ではそうした問題が起きた時にどう対応するとよいのでしょう?まずは自分の考えを他の人に共有することです。言葉で伝えてみる、図に書いて共有してみる、とりあえず手を動かしてみる…と色々な方法があります。はじめに失敗を重ねることで次につながっていきます。

 

 

 

ふりかえる

制限時間になったらつくったものから手を放し、周りの作品を見てまわります。どうやってつくれば長く記録を残せるか…というのはとても気になるポイントですが、このワークにとって大切なのはプロセスです。ふりかえりの時にやりがちですが、この時間を反省会にしてしまうのは勿体ない時間の使い方です。スタート!と言われたときにまずどのような行動をとったか?役割分担はどのように振り分けられたか?何か動作を進めるときにどのようなコミュニケーションをとっていたか?
内容を「ふりかえる」ことで、何が起こっていたかを客観視していきます。これは次につなげるためのふりかえりです。

いままでの基礎ゼミを通してあまり交流のなかった相手を意識して集まったチームでしたが、一つの目標に向かうことをとおして役割がそれぞれにできたことで、3人がひとつの生き物のようになっていくのだと西村さんからお話いただきました。

この舟のろう方式

午後からは〜ながラーの活動の軸となる「舟の活動」の基本的な約束事から、どんな思いで活動していくとより良い活動になるか、美術館スタッフと西村さんから話をしました。

~ながラーは年齢も経験も異なる人が集まっています。持っている常識の違う同士が集まったときにどんな話し合いができるか、場を意識することで、価値のある時間をつくるトレーニングにもなります。

「きく力」を意識する

舟の話の後は「きく力」を育み大切にする時間です。
2人組を作り、新しいチームで再度話す…解散…を繰り返していきます。

今回は2人組で4つの「聞かない」に関する様々なシチュエーションを体験していきます。

Aさん、Bさんに分かれ、話し手への指示と聞き手への指示をそれぞれ別に与えます。互いに相手の指示は分からないようにします。
Aさんにだけ、Bさんにだけ、というようにそれぞれに開示された指示をそれぞれが遂行していきます。
例えば
話し手Aさんへの指示「最近あった嬉しかったことを話し続けてください」
聞き手Bさんへの指示「Aさんが話しかけてきますが、上の空で聞くなど、一切無視し続けてください」
といった具合です。

この状況で話を続けた場合に、聞き手は話している相手にどんな影響を与えたでしょうか。指示された聞き方は、話し手にどんな影響を与えたでしょうか。といったふりかえりをします。
この時のふりかえりでも、無視し続けるのが難しかった…という、ただの感想交流の場にはせず、何が起こったのかを客観的に見ていきます。この後もペアの解散を繰り返しながらワークをさらに体験しました。

「きく」ためにできること

・「無視、無関心」
・「横取り」
・「否定」
・「解決、解消」
話し合いの中でマイナスの要素を持つこれらの行為を意識的に入れこんだ、4つのワークを行いました。

これらのマイナスの要素を逆張りすると「きく」ためにできることが浮かび上がってきます。
無視⇄関心を向ける
横取り⇄考えない
否定⇄一緒に感じてみる
解決⇄先回りしない
となります。
これらのきくためにできることを意識するだけで人と会話している時の自分のあり方も変わってきます。

西村さんより

きく力があれば、誰かのささやかな気づきにも触れることができます。

今後活動を進めていく中で世の中にないものを形にしたり、育てていくような〜ながラーの活動の中で、支え合い、お互いを思いやることのできる関係を築いていって欲しいと西村さんは〜ながラーに向けてお話いただきました。

〜ながラーのふりかえり

・スパゲッティ工作から始まる活動。3人で協力して、でもほとんど初めましての3人。どれだけ長くのばせるか、わがグループは途中で、折れる、床についてしまう。残念、、、でもみんなでやった感あり。3人がお互いを知る。

・“スパゲッティ・キャンティレバー”からは、やってみる文化、失敗は早めに、工夫してコミュニケーション、場を作る、単に反省ではなくプロセスをふりかえるべし・・・等を実感し、“聞く力”では、聞く態度が相手の大切なアイデアを引き出すということを学びました。また、多くの〜ながラーの方々とたくさん会話できたことも大きな収穫でした。いっしょにふりかえると理解が深まります。

・役割分担・時間の管理・作業環境・情報共有・柔軟な対応 今回のお話の中でお聞きしたことを今後の舟の活動で身につけていきたいと感じました。まだ自分ではなかなかアイデアが浮かんできませんが笑、トライ&エラーで色々なこと経験したいと思います。

・午後の「きく」力のお話はとても為になりました。聞いているつもりであっても、「つもり」であって、真に相手の心に寄り添っていた時はどれくらいあっただろう、と少し怖くなりました。あれから、ふとこのことを思い出して、「このように聞こう」と考えながら会話することがありました。しかし、結局それは自身の考えに置き換えてしまっていることに気づき、当たり前のことが案外難しいのだと改めて実感しました。

・午後のレクチャーで印象に残ったのは「相手の話を聞くときに、考えないでその人の感じや気持ちを一緒に感じる」ということです。考えないで感じるとは?まだつかめていませんが、実生活でいろいろ試してみようと思います。最後は、ふりかえりで出た「自分に余裕がないと人の話が聞けない」という感想に共感しました。

・挨拶してお話して何かを成し遂げたら即解散!今までの自分ならいやだなって思うはずなのに、なぜだか心地よく名残惜しい感覚が「次はこうしてみよう」につながっているように感じました。

・今回のゼミのタイトルは「きく力」とひらがなでしたが、調べると「聞く」と「聴く」はきく態度によって使い分けるとありました。「きく力」の意味は深いです。ありがとうございました。

スタッフノート

人の話をきくこと。シンプルな行為のようで奥が深く、トレーニング次第で聞き方も変化していくのだと思うと日常でも意識することができ、相手の存在をさらに大切にできるのではないかと感じました。振り返りを反省会にしないことで、次につながる意識作りの経験を積み重ねていけます。スタッフも日常の中でも意識していきたいと感じました。