開催レポート:〜ながラーによる美術館ツアープロジェクト
11月3日(文化の日)「岐阜 ふるさとを学ぶ日」に、「〜ながラーによる美術館ツアープロジェクト」を開催しました。「岐阜県美術館でのおすすめの過ごし方」を届けるプロジェクトとして、4人の〜ながラーで3つのオリジナルツアーを企画しました。
企画〜事前準備
ツアー企画が出発したのは9月中旬。コロナ禍による臨時休館のなか、オンラインミーティングでツアー企画に興味がある〜ながラー4人が集いました。
「美術館のイスに注目してみたら・・・」
「作品を、あえて『見ない』ってことを実験してみたくて」
「どうしても、この所蔵品展の作品で鑑賞会をしたい!」
「みんなのアイデアをサポートしたり、鑑賞や出会いの場づくりに関わったりしてみたい」
それぞれのモチベーションをかけあわせて、9〜10月にオンラインと美術館でミーティングを繰り返し、ツアーを作っていきました。
準備やモニターツアーを通して、お客さんが安心して楽しめる内容へと練り上げていきました。大切にしたのは、充実したツアーの内容に加えて、メンバー同士でビジョンを共有すること。「もし誰かが当日来られなくても、楽しみ方や価値観を理解しあっていれば、きっとフォローしあうことができるはず!」。そんな信頼感のあるチームワークを作って、本番にのぞみました!
【ツアー1】「美術館イス体感ツアー〜見て 座って 楽しもう〜」
館内の「名作椅子」を巡るツアーです。変わった形の椅子や、置かれている場所との関係などに注目しながら、30分で4つの椅子を巡りました。椅子の前に行くと、〜ながラーから「椅子の名前あてクイズ」が出題されます。思わず笑ってしまう、ユーモアのあるクイズは〜ながラーならではの工夫が満載です。
実際に座る場面では、座り心地を確かめたり、座って見える風景に注目したりと、様々な着眼点から椅子を「体感」しました。
座った姿を見合いながら、参加者同士で楽しむ時間も生まれました。
注目した椅子たちは、普段から美術館のホールやロビーに置かれているもの。よく見かける物もあれば、特別なものもあります。
「見た目からは想像できなかったけど、予想外に座り心地がいい!」と感じた方もいたようです。
また、ツアーのスペシャル体験として、監視員さんの椅子にも特別に座らせてもらいました!
参加者の方で、「美術館で椅子に注目したことはなかったので、注目するポイントが変わりました!」とお話しされていた方がいました。それぞれの場所に合わせた椅子のデザインや、プロダクトにまつわるストーリーを知ることで、美術館の楽しみ方がひとつ増えたのではないでしょうか。
【ツアー2】「みえる人+みない人のコラボ鑑賞会」
この体験では、作品が「みえる人」と「みない人」の2つのグループに分かれて、1つの作品について言葉のやり取りをしていきます。
作品について「みえる」ことを話したり、「みない」ことを問いかけたりするなかで、想像することや伝えることの難しさを相互に体験していく、実験的な試みです。
スクリーンに作品画像が映し出されており、「みえる」チームの人はスクリーンの正面に、「みない」チームの人はスクリーンの横に座ります。
「みない」チームは、一切のヒントがない状態で、「みえる」チームの言葉を聞き、作品について想像をふくらませていきます。
鑑賞したのは、下記の2作品です。
《なでしこを持つ若い女》(モーリス・ドニ、1896年)
《視ル・聞ク・言ウ》(長谷川喜久、2015年)
最初に、「みえる」チームが作品に描かれているものを説明します。
「女の人が一人立っていて、こちらを見ています」
「背景は、ひらけた大地や川が流れていて…」
「みない」チームは、その言葉を聞いて気になったことを質問していきます。
「女の人は、どんな表情ですか?」
「天気や、季節はいつ頃だと思いますか?」
2つのチームのやり取りのなかで、作品を伝える言葉が増え、時に解釈が変わっていくこともあります。
「最初はほほ笑みだと思っていたけど、実は悲しそうな表情かも…」
「春らしい服装だけど、寒そうな気もするし…」
「少女じゃなくて、もう結婚できるくらいの年齢かも…」
じっくり言葉を交わして、どちらのグループでも作品への疑問がたくさん生まれたところで、席を交代。
「なるほど、こういう絵だったのか!」「想像してたのと全然違う」
「みない」チームは驚きをもって作品と向かいあいます。
2つのグループを交代して、15分ずつ「みえる」「みない」のチームを体験をしました。
参加者の方からは「予想していたよりもずっと、作品についての想像がふくらんでおもしろかった!」との感想がありました。
【ツアー3】「 アートと対話〜『20世紀の美術』から〜」
このツアーでは、所蔵作品展「20世紀の美術」から、〜ながラーおすすめの作品をじっくり見ていきました。特に、抽象画について、複数の人と話しながら見る体験を大切にした30分間です。
最初に鑑賞したのは、《配置》(岡田謙三、1964年)。色や形が特徴的な作品です。
まずは、話さずにじっくり見る時間。いろいろな角度から絵を見たあと、〜ながラーの「この絵に描かれていることや、感じたことについて教えてください」という問いかけから、みんなで作品について話していきます。
「まるで白い雪の風景が広がっているみたいですね」
「この明るいオレンジ色が、太陽の光なのかなと思って…」
「みなさんのお話を聞いていたら、だんだん空間の広がりが見えてきました。遠くにある山々や池、手前の風景がどこか懐かしい感じがします」
一人一人の感じたことや、気がついたことが重なって、どんどん作品が立体的に感じられるようになっていきました。
鑑賞の最後に、〜ながラーから、作家の岡田謙三が大切にしていた言葉「幽玄主義」「ユーゲニズム」についても紹介。ニューヨークでの生活や、どのような経緯でこうした作品が生まれてきたのか、参加者とともに想像を巡らせました。
次に鑑賞したのは《闘牛のための習作 No.1》(フランシス・ベーコン、1978年)です。こちらも色鮮やかなオレンジが印象的な1枚。ダイナミックな闘牛の様子が、緊張感をもって描かれた版画作品です。闘牛士の表情や牛との駆け引き、観客との関係など、大きな画面からは様々な発見がありました。闘いの場面だからか、参加者のみなさんがお話しする様子にも熱がこもり、本当に観戦しているかのようにお話しが盛り上がりました。
ベーコンが影響を受けたという、パブロ・ピカソのキュビスムに関する作品とも見比べ、同時代を生きた作家たちに想いを馳せます。
最後に、オディロン・ルドンの《青い花瓶の花々》(1904年)も鑑賞しました。短い時間ではありましたが、充実した作品鑑賞の時間となりました。
ツアーの最後に、参加していただいた方から感想を伺いました。
「自分だけではなく、他の人と一緒に見ることで、発見や視点が広がって、作品がどんどん動いていくように思えました」
「子ども向けのワークショップとは違い、自分の年齢にあった企画が嬉しかったです。大人向けの体験って、素敵だなと思いました」
「途中から飛び込みで参加しましたが、色々な方のお話が伺えておもしろかったです」
コロナ対策につき、限られた人数での実施となりましたが、その分じっくりとお楽しみいただけたようです。
ふりかえり
各ツアーの後と、1日の終わりに〜ながラーメンバーでふりかえりを行いました。30分の流れや、リハーサルとの違い、突然のトラブルや、参加していただいた方との交流でよかったことを全員で共有する時間です。
自分たち自身が楽しかったことや、ツアーを実施するまでの準備で協力したことなど、1ヶ月半のプロセスをしっかりふりかえって、このメンバーの活動は解散です。