実践ゼミ2〜4「舟のおもしろい公開日誌をつくろう」

2020年4月から始まったアートコミュニケーター「〜ながラー」は、コロナ禍とともに歩む1年となりましたが、オンラインや美術館にて、さまざまな活動を展開してきました。2〜3月には「活動のアーカイブづくり」をテーマに、3回の実践ゼミを行いました。記録を残すことや伝えることはミュージアムの使命であると同時に、目には見えない人とのつながりを育むアートコミュニケーションプロジェクトには欠かせないものです。1年の活動をふりかえりながら、さまざまな形のアーカイブづくりに挑戦しました。

※緊急事態宣言中の初回はオンライン(Zoom)での開催とし、対面方式の開催時は検温、手指消毒、マスクの着用、使用物品の消毒などの感染症対策を実施し、任意参加としました。

講師

多田智美(編集者、株式会社MUESUM代表)
第2・3回アシスタント 妹尾実津季(編集者、株式会社MUESUM)

2/20(土)実践ゼミ2「舟のおもしろい公開日誌をつくろう〜プロジェクトを残す1」

オンライン(Zoom)での開催となった第1回では、「編集」の役割について学んだり、1年間の〜ながラーの活動のなかで、特に印象に残っていることをふりかえったりしました。

初回では特に、「編集」に必要な視点について注目しました。

まず、多田さんから「編集」に関するレクチャーを受け、物事を伝える時に必要なポイントや、日常のなかにある「編集的な思考」について理解を深めました。

ゼミの中盤では、Googleのスプレッドシートを活用し、Q&Aのワークを行いました。多田さんからの問いかけに、〜ながラー全員がそれぞれの答えを書き込みます。
たとえば、こんなQ&Aになりました。

Q.「〜ながラーをやっていてよかったな!」という瞬間は

A. 新しい仲間が出来たことです。
A. みんなの話を聞いてる時。自分の話を聞いてもらってる時。
A. アートの良さについて共有できる。アートの話をしたときに理解してもらえること。
A. コロナ禍にそれほど鬱々としなかったこと。それはきっとながラー活動が日常において有意義だったからだと思うんです。

Q.一番印象に残ったできごとは?
A. たじたじになりながら対話型鑑賞をしたこと。
A. 日比野館長へのプレゼンと、その前後の出来事。
A. 意見の食い違いやカン違い。コミュニケーションの難しさ。別に珍事件ではないのですが。
A. ITに疎い私でも動画編集ができた、ということ。

Q. 〜ながラーって〇〇〇〇みたい。さて、どんな存在?
A. それぞれが持ち寄った手弁当でピクニックする感じ。
A. お客さんに一番近く、中のことも少し分かって「橋渡しの船頭さんみたい」な、あっちとこっちを結べる存在。
A. 繋ぎ目、ボタンみたい。何か違うものと違うものを結びつけている存在かなぁー♪

お互いの答えを見合ったり、共感したことを話し合ったりしながらすすめました。

後半では、「観察する力」という観点から、お笑いコンビ・ミルクボーイさんのコントを聞いてみました。「ひとつのことをときほぐす」ことで見えてくる面白さについて理解を深めます。
次回への宿題は「スタジオジブリが提供する画像集から1枚を選んで、『〜ながラーあるある』を紹介!」という課題がでました。

3/13(土)実践ゼミ3「舟のおもしろい公開日誌をつくろう〜プロジェクトを残す2」

前回の課題「スタジオジブリが提供する画像集から1枚を選んで、『〜ながラーあるある』を紹介!」を飾って見ていきます。
「個人的なあるあるから、美術館に関わるもの(作品には触らない、など)もあり、〜ながラーの活動である協働のポイントが多くあがっていますね」と、多田さん。ビジュアルとあわせることで、短い言葉でも、読み手が状況を想像して、イメージがふくらむ伝え方となります。

次は、「ブラインド鑑賞」のミニワーク。二人組で、一人はスクリーンに背を向けて着席します。
もう一人は絵を見て、相手に「こんな絵!」と伝え、絵を見ていない人が、その言葉を手がかりに絵をかきおこすワークです。

10分後、振り返った人たちからは「あ〜、なるほど!」との声が。

「伝える役割の人は、『のんびりした風景で・・・』とか、『石造りの橋があって・・・』とか、相手が一緒にこの絵を想像できるか、伝えようとする工夫をしていましたよね。絵に背を向けている人は、相手の反応を見ながら、『これであっているのかな』と不安だったと思います。」と多田さん。言葉で伝えることの難しさと同時に、目の前にいる人を信頼することの大切さを実感した方が多かったようです。

この日の後半は、様々な方法で「伝える」ことを実践していきます。
一つ目の方法はインタビュー。2人1組になって、15分ずつお互いにインタビューをします。
テーマは「わたしが考える2020年度 『〜ながラー』 ハイライト」です。

「まず、考えておきたいポイントは『その人の言葉でしか伝えられないことって、どんなこと?』という視点。同じ話題、イベントについて話していても、その人の役割や、興味のあることによってお話の内容は変わりますよね。」と多田さん。
よいインタビューとは、本人が当初は話そうと思っていなかったことが、自然と引き出されるような時間になるそうです話を聞いていくうちに、こんなことも話したい、とアイデアが出てきたり、話し手がこれまで気がつかなかった事も話せるようになったり、さまざまなことが起きるのだとか。

インタビューの次は、「2020年度の〜ながラー活動」をテーマに、4つのグループに分かれて記録づくりをしてみます。
・4コマ漫画
・なりきりラジオ
・川柳
・覆面座談会(LINEグループでチャット)

完成したら、同じ方法で表現したグループで集まり、できたものを共有。最後に各グループから1点ずつ発表しました。
今回の宿題は、「2人1組のインタビューの編集」です。

 

3/27(土)実践ゼミ4「舟のおもしろい公開日誌をつくろう〜プロジェクトを残す3」

まずは、前回の宿題だった「インタビュー」の原稿を全員で読みました。他の人の表現を読んで「いいね!」と思ったところや、ちょっとした感想、「こうしたら読みやすくなるよ!」などのポイントを書き込みあいました。

その後、講師の多田さん、アシスタントの妹尾さんから、よい文章のポイントを「〇〇賞」と評して、解説してもらいました。
「こちらは、惹きつける書き出しで賞!話し手と書き手の距離感の近さがわかる、特別な関係ならではのインタビューですね」「こちらは、書き手との距離がよくわかるで賞。このエピソードはみんなが気になったのでは!?」と、具体的に紹介。

そして、最終回に取り組んだのは「〜ながラー大辞典 2020年度版編纂プロジェクト」です。
活動のなかでよく使う言葉、特別な意味をもった言葉、欠かせないキーワードなど、〜ながラーならではの言葉をまとめた辞典をつくります。

まず最初にキーワードを全員で書き出し、目次のように並べてみます。そのなかから気になった言葉を1人3つずつ選んで、解説文を書きました。

たとえば、こんな言葉が綴られています。

【県美】岐阜県美術館の略称。〜ながラーには岐阜県以外に在住する者も多いが、〜ながラー関係者が「県美」と言った場合には通常岐阜県美術館を指す。別称として岐阜県美と言われる場合もある。(すーさん)

【小舟】〜ながラーメンバーが約3人1組になって自分のやってみたい事を交流する。個々の共通点が小舟のテーマとなりプロクトに漕ぎ出す小さなコミュニティー。(ひーちゃん)

【チュー助】2020年、岐阜県岐阜市の長良川で冬至の日に行われたイベント「こよみのよぶね」にむけ、〜ながラーが製作した巨大なねずみの形をした行灯である。(こんちゃん)

最後に五十音順ですべての言葉を貼り出して、全員で読み合いました。1年間の活動が思い起こされると同時に、〜ながラーにまつわる言葉を再定義したり、新たな一面をみつける時間になりました。
ゼミの一番最後の時間には、「〜ながラーになる前の自分」を宛先に、手紙を綴りました。
完成したお手紙は、4月から加わる新メンバーに読んでもらったり、アートコミュニケーターズルームで一時公開したりしていました。

スタッフノート

コロナ禍と共に歩んできたアートコミュニケーター「〜ながラー」の活動は、「今できるアートとコミュニケーションのかたち」を常に考え、トライ&エラーを繰り返す1年となりました。新しいアイデアを考えて、色々な人と話し合って…と、〜ながラーや美術館スタッフの間で様々な試行錯誤が繰り広げられていた反面、それによって起こったことや、生まれた価値を「伝えるための残す」ためには、まだまだ工夫が必要です。プロジェクトの過程や、コミュニケーションの体験は目に見えないからこそ、言葉やビジュアルを通して記録することが大切です。アーカイブ作りは、ミュージアムにとって重要な活動であると同時に、アートやコミュニケーションに関する活動が広く理解されていくためにも、力を入れて取り組みたい活動の一つです。

〜ながラーが制作した「〜ながラーインタビュー」や、「〜ながラー大辞典」、川柳や4コマ漫画などは、後日公開予定です!お楽しみに。