大橋翠石展を鑑賞して、《Such Such Such》を行うツアーを開催しました。
大垣地方にゆかりのある作家で、生涯にわたる画業を紹介する展覧会です。

開催概要

開催日:2020年8月2日(日)
時間:14:00〜15:30(90分)
会場:岐阜県美術館 アトリエ、展示室
対象展示:明治の金メダリスト 大橋翠石 〜虎を極めた孤高の画家〜
対象作品:
グループごとに、下記の作品から3点を鑑賞しました。(作者は全て大橋翠石)
《猛虎強襲之図》《悲憤》《猛虎図屏風》《獅子睡眠之図》《菅原軕見送り 岩上猛虎之図》
《雪中猛虎図屏風》《白虎之図》《表猛虎・裏白鶴之図屏風》《猛虎之図》《虎図》

ツアーの流れ

グループを作って作品を鑑賞する

この日はアトリエから6つのグループに分かれてアートツアーに出発!
大橋翠石展の会場に分散して、大きな屏風や掛軸などの作品をゆったり鑑賞しました。
まずは作品をしっかり見て、作品について気がついたことや、考えたことをお話ししてみます。

コネクターを選ぶ

作品から浮かんだイメージや感じた気持ちに近いと思うコネクターを選びます。今回のコネクターは、鑑賞する作品に合わせて3種類。ちぎった和紙、古い洋服のはぎれ、アルミホイルでできた抽象的な形、と様々な素材がありました。
作品と見比べながら、自分が感じていることに近いもの、作品を表現していると思えるものをひとつずつ選んでいきました。
「なんでこれにしたの?」「作品のどんなところから、そう感じたの?」と、それぞれの感じ方について聞きあいます。

アートカードにスケッチ

3点の作品を見て、3つのコネクターを選びました。選んだコネクターは、作品のキャプションと並べて、アートカードに貼ります。
100色の色鉛筆から1本を選んで、作品を見たときの「感じ」を思いおこすスケッチをしました。
絵に描いてみたり、言葉で書いてみたり・・・表現の方法はさまざまです。

みんなの作品を見る

完成したアートカードを、みんなで見てみます。
机の上には、そのグループが鑑賞した作品の図版が置いてあり、他の人がどんな作品をみたかわかるようになっています。
作品を見ながらお話ししたこと、コネクターの存在、感じたことがどのようにスケッチにつながっていったのか。
他の人のアートカードをじっくり鑑賞し、時にお話ししながら交流しました。

作品を鑑賞して
  • 《猛虎強襲之図》をみて、他の虎とは全くちがう表現にびっくり。「どうしてこんなに足が太いの?漫画みたいじゃない?」「本当の虎を見たこと、あったかな?」と、写実的な作品との違いを観察しました。
  • 二頭の虎が描かれた作品では、対比の表現に注目が集まりました。《猛虎之図》を見た40代の女性は、「2匹の虎から、静と動の異なるイメージを受けた」と語りました。所蔵作品である《虎図》を見た小学生の女の子は、「今にもとびかかりそうな虎と、それを怖がって後ろをふりかえる虎」と表現してくれました。姿勢や視線を細かく観察する場面が多くみられました。
  • 「怖い」「怖くない」「きれい」「とぼけたかんじ」と、人によってまったく違う印象だったのが《白虎之図》。丸みのある耳や身体、他の作品とは違う色遣いに注目した方が多かったようです。
  • 《悲憤》を親子で鑑賞。鷹に子虎が連れ去られる様子を見て、「口をいっぱいあけて叫んでる!おとうさーん、おかあさーん、って言ってるのかな」と観察した子どもたちがいました。それに対して、お母さんは親虎の必死な様子に注目し、「どうしても親の気持ちで見てしまう。やり場のない悲しい気持ちがあふれてくる」とお話ししていました。
    また《表猛虎・裏白鶴之図屏風》にはじゃれあう虎の家族が描かれています。「しっぽをくわえられた子どもの虎が、『ひっぱらないで!』といたずらしてる兄弟に言ってるみたい。こっちの子どもにのっかられている大人の虎は、『重たいよ』って言ってるんじゃないかな。」作品を見た3才の女の子は、こんな風に想像していました。家族を題材にした作品も多かったため、それぞれの視点から感情移入して、作品世界に入り込んでいたようです。
参加者の声(アンケートより抜粋)

「初めて会った人ばかりだったけれど、着眼点、感じ方が違うなと思った。」
「年齢の違う者同士で見ると、全く違った発想を知ることができて、たいへんおもしろい発見がありました。」
「ワークショップでこういうタイプは初めて。意外に見方が深くなったような、興味がもてるようになった感じ。」
「もっと見てみたい、楽しかった。
子供たちが騒いでしまわないかハラハラしていたが、あちこち気が移っても、作品をよく見たり話したりできたことが、心に残ってくれるといい。」
「解説を聞いた時とは違う見方というか、自分の中に思うことを出せたなあと思いました。」

スタッフの振り返り

大橋翠石は岐阜にゆかりがある作家ということもあり、開幕当初から注目が集まり、このアートツアーもあっというまに満員になるほどの盛況でした。また、ツアーの最後には担当の芝涼香学芸員から、展覧会の理解がさらに深まるようなお話を聞くことができました。

会場では、迫力のある虎から可愛らしい虎まで、様々な作品との出会いがありました。参加者の方が1頭1頭のちがいを観察し、物語を想像するように、鑑賞を深めていったのが印象的です。アートツアーは、誰かと一緒に作品を見る楽しさを体験する、いわば美術館の“入門編”のようなプログラム。「作品をよく見て、感じる・考えること」を大切にしているからこそ、コネクターやスケッチを通した交流が活発な時間になります。スケッチにあらわれるのは、「今日の自分だけの美術館」。この体験をきっかけに、どんどん美術館を楽しんでくださいね。